■◇星に願いを◇■
7月7日であるこから、久しぶりのオフがどうなるか予想はついていた。
「昔キラの家でやったな…」
「憶えてたんだ」
「そりゃあれだけ大騒ぎして手伝わせれば嫌でも忘れないよ……」
色とりどりのタンザクと紙の輪。笹がないといって駆け回ったのも一度や二度じゃない。もっとも付き合いが長いのだから毎年やる行事でそうならなかったためしなどないのだが。
溜息を一つ。
「それで?キラは何したいの?」
にっこりとキラは笑って。
「だからアスランって好きだよ」
現金なやつ、とアスランは呟いてそれでもキラの笑顔のために端末に手を掛けるのだった。
平和が訪れてから早2年。
安定したとは言いがたいが、それでも一応の収束は見せている世界で、けれど政治や軍から抜けられないことも多い仲間たちは忙しく働いている。
現在プラントにいてキラが知っているのはアスラン、ディアッカ、イザークくらいだろう。
生憎とカガリとラクスは地球で、今日中に来るのは絶対に無理だ。
つまり、揃ったのは今集まれる全員ということだ。
「これは何なわけ?」
ひらり、と縦長に切られた小さな色紙を振ってディアッカはいきなり呼び寄せた男に向けて問いを放った。
「短冊だ」
「いやさ、だからそれがなんだよ……」
単純明快に答えられてだからと頭痛を堪える様に頭を抑える。
アークエンジェルで再会してからのアスランはわりと取っつき易くなったような気がしたのに、こんなところではどうにも見下されている感が否めない。
慣れている、といえば慣れているのだけれど。
「ディアッカ七夕って知らない?」
「いや、まあ織姫と彦星の話っつーのは一応知ってるけど」
さっすが、とニッコリ笑ったキラに思わず頬が緩む。
駄目な奴が居ればそれをサポートする人間はどうやら居るらしい。ああ、再会してからのアスランはそれもあっての印象だったのかもしれない。
「それに引っ掛けた日本の伝統行事なんだよ」
「へぇ……」
「……で、一体全体何をしようというんだ」
こちらもこちらで機嫌が悪い。デフォルトであるかもしれないが。
たいていの人間はこんなイザークには蛇に睨まれた蛙状態になるのだが。
「七夕!」
やたら元気に嬉しそうに答えられるのだからやはりイザークもだからと爆発寸前のようだ。
やはりキラもアスランの同列なのかと思うくらいには言葉に欠落があるらしいが、だがここでフォローの変わりに短冊がキラの手に渡された。
「イザークも願い事一つ、これに書いてね」
はい、と思わず和むような笑顔で渡されてしまえば、さすがのイザークもアスランに向けるように怒鳴り散らすわけにもいかず。受け取ってしまったことに苦虫を噛み潰したような顔をしてペンを取った。
「願い事……ねぇ」
まぁ無欲な人間ではないし、それなりに無いわけでもないが、思いつくことも無く適当にペンを走らせる。
真面目だが、単純なイザークもわりあいすぐに書きあがったようで、意外でもなんでもなくアスランは一番に書き上げて、用意してあった異様なもの――――笹に付けにかかっていた。
「なーる。そういう使い方するわけか」
「文化とはいえ、なんで笹なんだ?」
「あぁ、俺も正直なんでわざわざ笹につけるのか分からないが……」
ちらり、と向けられた視線にあーそーですか勝手にやってろと思うのは二人だけではないはずだ。
「ほら。あとはキラだけだぞ」
貸して、と手を伸ばしたアスランを無視してキラは自分で梯子によじ登る。
コーディネイターなのだからそれくらいはお手の物なはずなのに、どこかハラハラしつつ見守ることしばし。
無事に降りてきたキラに、アスランはそっと安堵の息を吐き出して手を差し出した。
今度は掴まれた手に当たり前のような顔をした。
「みんな何て書いたの?」
「さあ」
「イザークは『アスランを倒せますように』ってか?」
「ふんっ!今年こそは倒してやるさ」
そうか、と余裕にアスランが笑うのにイザークが食いつく。
見るほうも楽しげに笑って、あとはもう。
飲んで食べて、喋るだけの会だった。
「キラはなんて書いたんだ?」
こっそりと囁くアスランにキラはニッコリと笑う。期待していなかった通りの答えに、懐かしさに目を細めるくらいだ。
「そういうアスランは?」
「そうだ、な……」
人に教えてしまったら叶わない、という噂もあるけれど。そっと耳に寄せて囁いた。
『キラとずっと一緒にいられますように』
『来年もみんなといられますように』
(どうか、そんなささやかな願いが叶いますように)