絶対禁止

ブラインドを上げればすでに太陽は南中間近のように頭上に輝いていた。すでに慣れたが地球でみるその光源は電気などではなく太陽だというから凄まじい。
砂漠に下りたときはあまりの暑さに好きじゃないと思ったが、今ではそれなりに気に入っている。ただしそれも同居人の一言があってからだというからどうしようもない。
なんぞと寝起きの頭でぼんやりと考えて、体を起こしてあくびを一つ。そのままスリッパを突っかけて部屋の外に出た。

コトコトとキッチンで音がするのに訝しげにディアッカは首を傾げる。
一戸建てを買うくらいなんでもなかったが、二人で住むには広すぎるという庶民感覚のキラの一言で決まったそれでもやっぱりキラに言わせれば無駄に豪華なマンション。そこはキラと自分しかいないはずだった。
だが料理は全てディアッカ担当。別段好きでもないが、それ以上にキラにはやらせたくなかったので文句は言わない。
思えば料理の他に掃除もイザークと同室だったおかげで頻繁にやらされていたから問題なくできるし、洗濯だって機械に放り込むだけだから問題ない。家事ができてかなり高収入な仕事も持っているしお買い得な男だとキラに売り込んでみようか。
「あっディアッカ。おはよう。っていってももうお昼だけど。」
ティーシャツとジーパン。その上からシンプルな黒いエプロンを付けたキラがひょこっとキッチンから顔を出す。
そこまではよかった。ああ、今日も可愛いと男が男に向けるには聊か問題なことを普通に思って。
目が留まったものにピタリと動きを止める。
――――――――――――手に包丁。
普通に使えば料理をするものだが、別にそれで人を刺そうが弾を斬ろうが構わない。
ただし、キラの手の中にさえなければ。
「だー止めろ、キラ。頼むから止めてくれ!」
「なんだよ。今お昼作ってるんだけど。」
「俺が作る!」
妙に必死になっているディアッカに呆れたような視線をよこしキラは包丁を持ったまま片手にたまねぎを持った。
(こりゃ……ちょっとやばいな。)
機嫌が悪くなるからやりたくないが実力行使も吝かでないと決意を固める。
―――――――――――― 一刻も早くキラの手から包丁を離さなければならない。
「キラ、料理は俺の分担だろ?」
「そんなのディアッカが僕にやらせないだけじゃないか。」
「じゃ、これから全部キラが作る?」
「……っ」
苦手なのは一応自覚しているのか言葉に詰まってにらみつけるだけのキラに苦笑してぽんぽんと頭をなでる。
「そーいうのがいやなんだよね。」
「嘘付け。」
憎まれ口を叩くキラにすぐさま返す。アスランのように子供の頃からずっとというわけでなくたってそのくらい分かる。
子ども扱い、というのとは少し違うがそういうスキンシップに弱いのだ。素早く抜き取った包丁に安堵を覚えつつお姫様を振り返る。
「何が食べたい?」
「……オムライス作ってたんだけど。」
「んじゃそれでいいな。好き嫌いっつっても自分で材料は出したんだよな?」
「うん。いつも母さんが作ってくれたのと同じ具だから。」
なるほど舌は肥えているようで間違っては居ない。用意された具は一般的なものとおそらく家で使われていたのだろう特色のある具で。
オムライスなら卵の焼き加減やらケチャップの量やらは別にすれば、具が同じなら大して変わらないはずだ。だが色が同じでも血の味がスパイスなんて冗談じゃない。
「……エプロンはいいかもしれないけどな。」
くるりと振り返った先の材料は少々どころでなく不恰好に刻まれていた。


end



オムライスに意味はなし。別にロールキャベツでも良かったんですけどね(笑)
キラは不器用だろうという大分前のチャットで盛り上がったネタを引っ張り出してきました。キラのエプロンはふりふりよりも二人共用のシンプルで(笑)