手のひらを合わせて、話したのは殺伐としたこと。
1.手のひら
その話になったのは何故だったのだろう。
「どんな人だった?」
キラが問うのは緑の髪をした、彼。
目の前の奴が殺した仲間。
同僚のことだ。聞かれるのに吝かではない。ないが。
……なんでこいつがそれを聞くのか、が問題なのだ。
殺した相手のことを知ってどうする。
俺はトールって奴自身のことを自分から聞こうとは思わない。
だって自己嫌悪に陥るだけだろ?
「……なんでキラがニコルのこと知ってるわけ?」
「アスランが呼んでたんだ。だから人なんだなって思って。」
コンピュータじゃなくて、機械じゃなくて同じ人。
悲しむ人間を見ることで初めてそれを自覚する。俺に比べればこいつは自覚があったのだろうが。
君も、とキラは唇の端だけで笑んでるわけじゃないのにその形に吊り上げる。
「僕が憎い?」
「……何言ってんだよ」
ああ、そうだ。アスランが悪い。
元凶はすべてアスランだ。
思い出させるようにそこに居るのが悪い。戦闘中に敵と通信を繋いでいるのが悪い。
八つ当たりが存分に入ってはいるが、まあこの問いの答え辛さを考えれば割愛してもらおう。大体本人に言わなければ分かりはしない。内心でどう罵倒しようが八つ当たりしようが勝手だ。
戦争が悪いだのこの戦艦に民間人を乗せたここの艦長が悪いだとかそもそもヘリオポリスを襲った俺たちが悪いだとかいう根本の追求は無駄すぎて興味がない。
そんなくだらない論法を繰り返すより、もっとも身近なものに向けたほうが形が明確ですっきりするに違いないのだ。
どこか思いつめたような一つ年下であるはずの少年は懺悔なのか恨み言なのかただの愚痴なのか判別不能な言葉を続ける。
「アスランは僕を殺した。”ニコル”を殺した僕が憎かった。僕もトールを殺したアスランは憎いと思った」
訂正。やっぱり八つ当たりをしなくても元凶はアスランだ。
殺して罵倒して
今でなくあいつの状況だったら俺だってそうしたに違いないが、今はありえないからアスランの行動を恨めしく思う。
「何だかんだ言っても人ってさ、そう簡単に忘れられるわけがないんだ。誰が殺したのか知っちゃってると特にね」
確かに忘れられない。新しい一歩を踏み出した今ですら完全に忘れることなんてできないだろう。
けれど。
こいつを恨んでるかとか憎んでるか、と言ったらそれだけはあるはずがない。
ニコルやミゲルには申し訳ないし、イザークが知ろうものなら烈火のごとく怒り出されそうだが、そんな不の感情よりずっと強い感情を持ち合わせていることを最近は物凄く自覚中だ。
「お前はどうなわけ?」
「君は直接手を下したわけじゃない。」
「同じ事だろ?」
「同じじゃないってば。その違いは大きいよ。」
止めを刺したか刺さないか。それは確かに以前は大きな違いだと思っていたけれど。
今は違う。
手柄じゃない。同罪、という罪の名。
ああ、まったく。
「憎いって言ったらどうするわけ?」
「問題は僕じゃないよ」
宇宙育ちなのだから遺伝子が自分のように設定してあるのでない限りあたしまえなのだが、白い手があわせられる。広がった指先は若干俺のほうが長いし太い。
自分よりも幾分小さな手。けれど多分守るのは同じかそれ以上だと知っているから怖い。
「この手で君は僕を殺す?」
殺したいのか殺されたいのか。
憎みたいのか憎まれたいのか。
鮮やかに笑んだその真意は知れない。
end
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