は最強の凶器だ。


2.涙


なんで、なんて理由は知らない。
ずっと一緒に居たわけではないし、俺がなにかしたわけではない……ハズ。
だけど。
「泣いてんの?」
顔を上げるキラの顔はどことなく沈み、瞳は僅かだが赤く充血していて泣いていたことは明白だった。
止めてくれ、とディアッカは頭を抱える。
普通の女なら気にしない。うざったい、と言う意味では感じるものがあるが。
そういう時女好きとフェミニストは別物だ。気にするならアスランとかイザークとかのがよっぽど気にするに違いない。
涙は女の武器だと言うが……
(むしろこいつの場合が凶器だよ……)
なんでこんな凶悪なまでに可愛いんだ。しかもなんだこの罪悪感。
悪いことなど何もしていないのに罪悪感など感じさせるな。
なんつーかもうタイミングがいいんだか悪いんだか分からない。理由が何であれ一人で泣かせるのは心配だし、泣いたコイツには絶対逆らえない気がする。
苦手か、と言われると少し違う。ただ弱いのだ。こいつの涙には。
……それとも弱いのは泣き顔か?
「泣いてなんかいないよ」
「嘘つくなよ」
「なんで嘘だなんて思うのさ」
なんでって言われたって見たまんまだ。
頭良いくせにそういうことに気付かない迂闊さがまた可愛いとか思ってしまう。
「目が赤いんだよ」
指摘すればえっと慌てて目を擦る。そんなことしたら余計に赤くなる気がするのだが、その仕草に小動物系の動きを感じてああ、可愛いと(以下略)。
「ウサギは寂しくって泣くんだっけか?」
思い出したのは日本の格言だったか御伽噺の一節だったかそれとも誰かの戯言か。忘れたけれどそんな言葉。
月にウサギがいると信じられていた地方ではわりかしウサギについての言葉はあったはずだから方向的には間違っていないはずだ。
「ディアッカって無駄に博学だよね」
「無駄っていうのは酷いんじゃない?」
「日本マニア?」
「……それはもっと酷いだろうよ」
「じゃあオタク?」
「おい、こら……キラ」
「冗談、冗談だよっ!」
首を軽く絞めにかかれば慌ててキラが謝ってくる。かつての同僚とは違い本気で絞められないのは惚れた弱みってやつで。……いやイザークとかアスランだとまた別の意味で本気では絞められないが。
腕の力を緩めれば抱きしめた状態で。
「まあ日舞は趣味だかんな。けど」
そこで一度言葉を切れば見上げてくる同じ紫の瞳。
まだ微妙に赤いが
―――まあコーディネイターだからってそんなすぐに引くわけないが―――顔自体は物悲しさが抜けとりあえず泣きそうな顔ではない。
よしっと密かにこぶしを握る。
「俺が日本フリークになったのは確実にお前の所為だぜ?」
「勝手に人の所為にしないでよね」
するり、とキラの身体はあっけなく腕から抜け出して。
その意味を分かってかわしたのか、分からずしてスルーしたのか。
(わかってないってあれは。絶対わかってないほうだよ……)
確信できてしまう辺り物哀しい。
まあ分かっていてかわされるのも傷つくが。

「……鈍いって罪だよなぁ……」

「ディアッカ?何してるのさ」

涙の後などとっくに乾いた少年はがっくりと項垂れた彼の呟きなど聞いちゃいなかった。


end



オタクはお前だろうと突っ込んでやってください。
ディアキラになるとキラが途端に強くなるのは何故だろう…
(A.苦労人が好きだから)