の檻に阻まれて。


9.鉄格子


……誰かがいる。
彼は軍人だ。そのくらい落ち着けばすぐに分かる。
暗闇の中に潜む、気配。
「誰だ?」
問いかけてはみたが、あまり返事は期待していなかった。
当然それはナチュラルだと思ったし、規則を破って入れられたか何かの軍人だろう。こんなところにザフトの工作員が入り込んでいるなんて聞いていないし。だとしたら、当然答えなど返っては来ないだろう。
コーディネイターの問いには。
そう思って、だが返答は意外なところから返ってきた。
「誰かいるの?」
どこか幼い、声。少年の声だというのは分かる。ただし、まったくもってその少年がなんてあるかは分からなかった。こんな薄暗い場所には酷く似使わない。
―――――――――そもそも戦艦などという場所自体が似合わないような透明な声。
その発生地は目の前の、対に立てられた檻の中だった。
「見える?」
鉄格子のぎりぎりまで出てきたのだろう。はっきりと見える白い影は案の定地球軍の軍服を着ていた。
ただ彼が存在を示すように手を振った瞬間。
じゃらり、と音を立てる。なんだ、と思えば少年の手足を拘束する鎖だった。
ザフトの軍人であり、さっきまで戦っていた彼だって此処に着てからは手足の拘束はとかれている。なのに地球軍であるはずのこの少年の手足には枷があった。
それも鎖だ。古典的なその道具は暗示的で気味が悪い。
彼の方でもこっちの存在を捕らえたのだろう。
ああ、と少年は笑む。
「君がバスターのパイロット?」
「そうだけど?」
こんなところでも情報は入ってくるらしい。
それともこいつがこの檻の中に入ったのが、投降した後だったのか。
ともかくもまとも……かどうかは分かりかねるが
――――――話が通じる相手であることを確認すれば好奇心がむくむくともたげる。そもそも暇ばかりある薄暗闇の檻の中だ。好奇心を満足させてやる以外にすることもない。
「そういうお前はなんなわけ?」
少年はしばし考え込んで。
「ここはね、鳥かごなんだ。」
「はぁ?」
突然の言葉に間抜けな声を返す。というか他に返せる反応もない。
もしかしたら頭の弱い奴なのだろうかと一瞬思う。
「僕はね逃げないように囚われている鳥なんだ。だからこういう鎖がついてるんだよ。」
そこまで聞いて驚く。視線に気付いていたのか。
だからそんな話を始めた。本当の理由にも正体にもふれさせないように。
この状況でそれができるのはえらく頭が良くて、度胸が良くて、注意深い人間だ。
見た目よりもこの少年、危険な人物なのかもしれない。
けれど今度もまたその表情を読んだかのように。
「きっと……そのうち分かるから」
だから秘密、と少年は笑む。





まいった、とディアッカはその笑顔を見た目を手で覆う。もちろんそれは嫌だからではない。
透明で、どこか儚くて。
綺麗だ。
アスランやイザークや彼の知る多くの美女の笑顔よりもずっと。
「まぁ、じゃあそれはいいや。」
一度頭を振り、気を変えたように言ってにっこりと女の子がイチコロの笑顔を作る。
「君、名前は?」
戸惑ったような間。
「あの、もしもし?」
「なに?俺、君の名前知りたいんだけど。」
名前を聞くのはナンパの基本である。
あとはそう。肩でも抱いて甘い言葉でも囁いてやるのがナンパの常套手段なのだが。
生憎とこの鉄格子が邪魔でそんなことはできないだろう。さすがにそこまで手は長くない。
「友好関係築くには名前は必須だろ?」
「えーとだから……」
「な、名前くらい良いじゃん。教えてよ。」
しつこく再度挑戦すると、ようやく諦めたのか。
「キラです。キラ・ヤマト。」
「そっ。俺はディアッカ。ディアッカ・エルスマンだ。」
満面の笑みで答えて鉄格子越しのナンパを開始したのだった。


―――――――――――――ちなみに。


この儚げな少年がフリーダムというプラント最新鋭製の機体を駆り、かつてはストライクを乗り回していたことを知るのはもっとずっと先のことだ。


end


真面目な話だったはずなのに…
注目すべきは必ずうちのディアッカの美人基準はイザークとアスラン(大笑い)
相変わらず愛が歪んでいます…いや、本当にディアッカスキデスヨ?