メールで回ってきた連絡事項にキラは小首をかしげる。
「天候制御装置の掃除って何……」
いや、何かは分かる。読んで字のごとくだろう。
「雪が降るのよ。」
赤いハロを転がしてくすくすと笑っていた少女が答えた。
顔をキラの方へ向けた拍子にピンク色の髪が翻ったが、光の中で見間違えることはない。
「プラントで雪?」
「うん。議長がそう言ってたわ。」
「へー楽しみだね。」
(雪じゃ実地訓練は無理だし早めに終わらせて遊ばせてあげてもいいな)
シンはともかくレイが雪で喜んで駆け回る姿なんて想像できない、ということをすっかり忘れて。
ニコニコと笑う少女を前に明日の計画を立てるキラは太陽のない場所で雪が降る、ということはとても寒いということを理解していなかった。
階段の上の人番外≪雪≫
「キラっ!」
ぶんぶんと雪の塊を持って駆け回るのは赤と緑と作業服。
アンダーに何を着ているか知らないが、そう厚着の出来る作りではないからおそらく通常の軍服のみである。
「……若いっていいなぁ。」
そんな少年たちを見てキラはふっと遠い目をする。
天候制御装置の掃除のためほとんど動きの止まったシステムにどこも空気は寒々しいばかりだった。
さすがに宇宙服を着なければならないわけではないが、宇宙の只中にあり、しかも太陽からは当然のように離れている―――近すぎれば燃えてしまう―――コロニーは制御を怠れば当然寒い。
さらにせっかくだからタンクの古い水も入れ替えようとした結果が。
雪なのだ。
がたがたと震える寒がりなキラにとって拷問にも他ならない。どうしてこんなときにイザークが本部勤務なんだろう。ボルテールに乗ってるなら絶対押しかけていって避難させてもらうのに。
隣で涼しげに立つ白い軍服の男を恨めしげに見やれば、やはりこちらも軍服一枚で平然と。
「グラウディス艦長の前で言ったら殺されるぞ。」
「まっさかぁ。タリアさんまだ若いじゃん。」
「さらに若いやつが何を言っている……」
べしょ。
「キラっよそ見してると当たるよ。」
あ、もう当たってるけど。言う声に顔を向ければ日ごろはかわいい教え子が悪魔に見える。
ただでさえ寒かったというのに冷たいものをぶつけられたのだから当然だ。
しかも顔は何も防御できないのだ凍傷になったらどうしてくれる。
「……いい度胸だね。シン。」
手が冷たくなるのを我慢して顔面の雪を払ってぬれた分は袖でぬぐう。
ゆっくりと顔を上げればどことなくも、なんとなくもなく……不機嫌だ。もしかしたら怒りの域かもしれない。
「うわっ逃げろっ!」
「シン、頑張れよ!」
「ちょっ……ヴィーノっヨウランも卑怯だぞ!!」
雪球を握り追いかけていったキラを横目にイザークは持っていた書籍を開き、ため息をひとつ。
「だいたいこれは若いんじゃなくて幼いというんだ。」
べしっ。
「あ、イザークごめん。」
滴る雪を拭いもせずパタン、と開いたばかりの本を閉じる。
にっこりと笑ったキラはイザークの沸点の低さを理解しているようで理解していない。
ディアッカに言わせればそのまま本を投げつけないだけ大人になった、というのだが。
「貴様……そこになおれっ!成敗してくれるわぁぁぁ!!」
「結局イザークも餓鬼なんじゃん。」
「室内に入れば一応暖房器具は動くんですが。」
あれはあれで楽しんでいるのだからほっといてやれ、とのディアッカの一言にシホはあっさりと参戦をあきらめた。
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<雪-すすぎ->
悪餓鬼組み。いろいろとありえないけれど番外編なので!深い突っ込みは勘弁してくださ…
それにしてもおかしいな。イザークとレイだけは格好よく、王子様、をスローガンに掲げているはずなのにギャグ要因に……!!
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