「……では、後ほど。」
そう言ってデュエルのコックピットに向かって敬礼してくれた子にひらひらと手を振った。


階段の上の人≪策≫


普通格納庫にあるMSはザクでないと目立つ。ザクであってもカスタマイズ済みのカラーは当然目立つけれど。そう、当然のように青いカラーリングがしてあるイザークの隊長機は目立つ。
だがジュール隊においてデュエルというのは便利だ。
大戦時
――――といっても極終わりに近い方だが――――に編成されたジュール隊は戦後も人員はほとんどそのままで、かつての隊長機があることに疑問を覚えるものはほとんど居ない。デュエルを譲り受けたキラが彼らと今も懇意にしていて、よく乗り付けることも一因だろう。
整備士は特にクルーゼ隊時代から見知っているものが多く、そこにあることを知っても何かを言ってくる人間はいなかった。
もしかしたらシホが手を回してくれたのかもしれないけれど。
「うーん、今どの辺かなぁ?」
出向がいつだったのか、どのくらいでつくのかいまいち詳しいことが分からないのだが、とりあえず動き出したのが分かってからしばらく経っていた。
いくらシホの協力があり、かつイザークが忙しいとはいえずっと隠れているわけにもいかない。隠れ通すことは可能ではあるかもしれないが、そんな騙まし討ちはイザーク相手にしたくは無い。
だから問題はいつ出るか、だ。
ある程度の距離を稼いでからでなくてはいけない。
(デュエルのパワーで計算するにしてもこの船の移動速度がわかんないから……)
「ヤマトさ〜ん。そろそろこっち来ませんかぁ?」
「あっはい!今行きますー」
もはやすでに隠れては居ないけれど。



「へーキラさんミネルバに行っちゃうんですか」
「隊長も別にキラさんが要請したなら断らないと思いますけどねぇ」
キラは正式な軍人ではない。だがパイロットの育成要員としてたいていの場所は入れる許可を得ているし、それを存分に使ってイザークやディアッカと言った既知の人間ともこまめに交流をしている。
勿論ボルテールやジュール隊の駐屯地など彼らが居る場所にキラが勝手に遊びに行くことが常で、だからこそジュール隊でも人気が高いのだ。
「それじゃあイザークじゃないですよ」
そりゃそうだと肯く人数の多さがイザークのイザークたる所以だろう。
整備道具や図面を床にばら撒いて見ながら、ドリンクを片手やら宙やらに置いた彼らはうっとりと上を仰ぐ。
「やっぱり懐かしいなぁ……」
「ザクも性能的には悪くは無いですが、Xナンバーは見た目がロマンですよね」
「デュエルを見せていただいてもいいですか?」
あんまりよくも無いのだけれど、今更隠すことなんてとくには無くて。
「じゃあちょっとだけ……」
散々弄りまくった機体のOSを呼び出した。








ジュール隊の副官はディアッカだが、彼にスケジュール管理をやらせるのは無謀というものだ。
もっともイザーク自体が時間にはしっかりしているタイプなので問題は無いのだが。それでも万が一を考えて、古株の赤服であるシホが一任されている。
「ジュール隊長。」
一通りの指揮、確認は終えて通路を伝っているイザークに付き従いながらシホは次の予定を確認する。
「機体の確認はご自分でなさいますか?」
「もちろんそのつもりだが?」
いつも自分の命を預けるものの整備は自分でするのに、何を分かりきったことをと言う顔をするイザークに。
(そろそろ大丈夫よね……)
ミネルバまで単機で行けるほどではないが、通常のモビルスーツで考えてプラントに戻れる距離以上は稼いだはずだ。
後はキラの話の持って行き方しだいで、この上司とキラの性格を考えればなんら問題はないと考える。
なんだかんだ言ってもイザークはキラを気に入っているのだ。
「失礼いたしました。ではその後二○○○には目的ポイントに到着予定ですので」
それまでに終わらせてくださいと言えば、不可解な顔も消えた。








「……何故貴様がここにいる?」
「硬いこと言わないでよ。」

ニッコリと笑って持った他に、トランプが床に撒かれている。
その隣であ、フルハウスと上がった声に対し、甘いよロイヤルストレートとキラが返す。
もはやイザークが怒鳴っていることに動揺するような人間は整備士にはいない。
「ええいっ!まじめに聞かんか!!」
「僕の権利と義務を行使しに行くだけだよ?」
勝ったのに満足したわけではないけれど、ニコニコとさらりと返す。
教え子に続きを教えに、ミネルバのOS設計者として。
それは当然の権利で義務だ。
「ミネルバの推水式には行く予定だったし。」
それがちょっと宇宙になっただけでしょ?と臆面もなく言ってみせる。
「ご丁寧にデュエルまで積み込んでおいて何を言っている!?」
「だからそのためのデュエル?」
首を傾げて見せるが、それで終わりにしてくれるイザークでもない。
「何が何が!あたりまえの権利と義務なら真っ向から申請して非武装で普通に来い!」
「シャトルを貸してくれるならそれでも良かったんだけどね。一応、何が起こるか分からないから安全かなっていうのもあるし」
気を使ったんだよ、とあからさまな嘘。
だけれど完全な嘘でもなくて。

「勝手にしろ!」

貴様と話していても埒があかんときって捨てた。

「僕、このまま乗っててもいいんだ?」
「デュエルでは戻る前にパワー切れだ」

ぶすっとした顔でキラの頬についた油を拭って自分の機体に向かう。
(こういうところがイザークのかっこいいところだよね……)
様になり過ぎてかっこいい。ディアッカやキラではそうはいかない。
アスランならどうだろうか。言ったら怒るから言わないけれど何気にこの二人は似たところがある。
うん、まあそれはいいのだ。
イザークと一緒に来た二人の人影その赤い方に感謝の笑顔を向けた。

「シホ大正解!」
「何?シホの案だったわけ?」
「そうだよ。今日はシホとお茶してたんだ」
「言ってくれりゃ俺だって協力したのに」
水臭いなぁというディアッカに、ニッコリとたった一言。
「だってディアッカじゃすぐにばらすじゃん」
口が軽いとかそんな意味はなく、イザークに強くは出れないだろうと暗に言えば。
「キラのためだったらやってやってもいーぜ?」
「その下心は?」
「議長の裏でいーぜ?」

「却下だね!」

にこやかに切って捨てた。


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<策-さく->
やっとディアッカとイザークのご登場。

次項