船橋を彼女は飛び出す。
それから。
駆けて、駆けて、駆けて。
ルナマリアを押しのけて自分の護衛たる青年の前に飛び出した。
「アスランっ」
その顔は喜び、というよりも切迫したものだ。ぼろぼろのザクからラダーを使い降りてきた男も同様に固い顔をして一つ肯く。何かが通じ合ったように目指す先は――――デュエルだった。
階段の上の人≪篝≫
着艦したデュエルから降りてきたパイロットを視界に納めて待ち構えるように組んでいた腕を解く。
「あれ、レイどうしたの?」
「キラが来るなどと聞いていない。」
「そりゃそうだね。僕は軍人じゃないもん。」
「なら……」
「けど権利と責任ってものはあってさ。ミネルバに搭乗するのは無理じゃないんだよね。」
ニコリ、と笑って見せるキラにしかたないとレイは納得できないまでもそれ以上の追及をあきらめる。謎な講師はあくまで謎の青年だった。
レイが溜息をついて身を引いたのと入れ替わりに、インパルスから降りて、ぱたぱたと慌しく降りてきたシンが子犬のように駆け寄ってキラに懐きだした。
「キラっどうやってここまで来たんだ?」
「もちろんイザークに乗せてきてもらったんだよ。インパルスの微調整まだ終わってないしね。」
「げっ……まさかその所為で弱かったんじゃないだろうな」
「まさか。それは君の力量だよ……まだまだ特訓が必要みたいだね」
ニッコリと笑って言えば、シンは面白いほど顔を青くさせる。
「いいっ!いいっ!!ほら、いまそんな状況じゃないし!!」
「シュミレーター使えば別にこのくらいの状況なんて関係ないんじゃない?どうせ上がなんか言ってこなくちゃどうにもできないんだし」
「いやいやいやいや!!多分色々やることあるって。アスハを送り届けるとかも言ってたし……」
「”アスハ”?って……」
シンの言葉尻を捕らえて疑問を放とうとした瞬間。
「――――キラ」
背後から聞こえた声にゆっくりと振り返り、目を見開く。
ここにいるはずの無い、地球にいるはずの、置いてきたはずのものが、なぜかシンたちと同じパイロットスーツを着て立っていた。
ミネルバに帰ってきた機体はキラを含めても5機。そのうち3機は当然ミネルバの正規パイロットである教え子たちのもので、誰がどれに乗っているかなど知っている。
そうしたら、消去法で彼が乗っていたことになるのは。
「……まさかあのザクに乗ってたの君なの?」
「ああ。」
案の定、の答えに思わず声を張り上げる。
「馬鹿じゃないかっ。あんな状態のザク単機で降下しようなんて……今無事なことが奇跡に近い。」
「誰が馬鹿だ。やるしかなかったんだから仕方が無いだろう!」
「君だよ君。相変わらずの大馬鹿でむちゃくちゃだ!シンが居なかったら君は今頃ザクと一緒にばらばらだよ!!」
「キラに言われる筋合いは無い。おまえほど無茶はやっていないさ。昔からな。」
「やめろ。」
「馬鹿は馬鹿だとして今聞きたいのはそうじゃないっ!」
アスランを庇う位置に立つが、言葉自体は到底そうは聞こえない台詞を持ってカガリはキラを問い詰める。
「キラ……どうしておまえがこんなところにいる!しかもデュエルに乗って!!」
必死な声。必死な瞳。
どこか泣きそうなのに強い姿で。
「答えろっ」
悲鳴のような追求にも答えない。答えられない。
わけが分からなくて、話に割って入れるでもなく、かといって立ち去ることなどできはしなく固まってただ側で見ているしかないシンは。
彼女の持つあまりの傲慢さに―――吐き気がした。
------------------------------------------------------------------------------
<篝-かがり->
こっちのネタがあるので先にこっちを……
この階段シリーズはあれです、書きたいところだけ書ける様に!!っていう趣旨だった(はず)なので!!!
目次項
|