「確かトールってあの人に殺されたのよね。」
「確かニコルってアスラン庇ってストライクのパイロットだったあいつに殺されたんだよな。」
ぼんやりとそんな物騒なことを呟きながら遠くに聞こえる喧騒を二人は聞いた。
■◇キミニアイナシ◇■
オーブが崩壊して宇宙へ上がって、そしてアークエンジェルにキラの幼馴染でディアッカの同僚であったアスラン・ザラが来て以来。それは日常と化している。
「ミリアリアっ匿って!」
食堂に飛び込んできた少年は地球軍の軍服である青い軍服を着ていた。もっともミリアリアもピンクの制服をそのまま着ているし、ディアッカは支給されたオーブの服を着ていてそれに深い意味はない。
くりくりとした大きな紫の瞳は毀れそうなほど大きく開かれて、どのくらい逃げ回っていたのか頬を赤くした様子で女のミリアリアですら守ってやりたくなるような可愛らしい少年は、だが生憎と彼女に守り通せるほど容易なものから逃げてきたわけではない。
「また逃げてきたのか?」
誰から、とは聞かずともわかってしまうのが怖いところだ、とディアッカは思わずにいられない。
「あはははは……」
乾いた笑いが如実に彼の現状を伝えてくる。
「大変だな……」
しみじみとディアッカは呟きを返す。
アスランを知る者として面白いといえば面白いが、それ以上に怖い。
むしろ目を疑った。とりうより本物かどうかを疑った。
アスラン・ザラといえば冷静沈着、鉄面皮、命令第一を絵に描いたような―――彼らに言わせればすかしたムカつく男だった。
そう”だった”なのだ。
アスランを慕っていたニコルには見せたくないし、ライバルと敵視していたイザークには間違っても見せられない。
ブチ切れて手に負えないこと間違いなしだ。
「昔はあんなんじゃなかったのになぁ……」
「俺が知ってるあいつもあんなんじゃなかったけどな。」
一体何が悪かったのだろうか、と二人は呟く。
本人に聞けば心外だ!と答えるか。それともキラ欠乏症だと答えるか。
考えてから不毛なことに気づいてディアッカはため息を吐いた。
「考えてもろくな答えなんかでやしねぇ」
「そうよね……」
今度はミリアリアが同意の息を吐く。
考えてしまった答えはどうやら揃って同じらしい。
「二人って仲良いね。」
ニッコリと爆弾を投下したのは勿論のことながらそんな二人を極々近くで見ていたキラだった。
言葉にせずとも伝わる思考回路は昔の自分たちを思わせたのかもしれない。
……今はまったくもって言葉にしても通じないが。
聞いていた回りはミリアリアに恐る恐る視線を向ける。
普段ならそれが普通の反応だった。
キラは知らないがこの二人、そう遠くない過去に殺傷事件まで起こした仲だったりする。
「まぁね。」
どこか遠い目をしてミリアリアは答え。
「同病相哀れむっていうか……」
むしろ同じ穴の狢?とディアッカを見やる。
ディアッカも苦笑してミリアリアと視線を合わせた後、キラを見るばかりでそれを否定しようとはしていなかった。
『……っラ……キラっ!?』
ピクリ、と突然にキラの肩が跳ねる。
その反応はこれまたアスラン・ザラがアークエンジェルに乗ってからよく見る反応で、それがあるときは大概。
「あっアスランもう気づいたのか……」
呟いてがっくりと肩を落とす様は先程よりもなお庇ってあげたくなる。
だが、ミリアリアの耳で捕らえられるほどに近づいてくる――――――――声。
それが食堂にたどり着く前にたっと床を蹴ってくるり、と振り返り。
「ありがと。また後で。」
ふわりと可愛らしく笑う少年と。
「キラ!」
遠くから聞こえてくる切羽詰った声を発する少年は、この後素敵に無敵な会話と電波を飛ばしてアークエンジェルに屍の山を築くのだろう。
まぁなんというか……
「バカップル」
「人騒がせな恋」
ふっと再び遠い目をして顔をあわせ。
「確かトールってあの人に殺されたのよね。」
「確かニコルってアスラン庇ってストライクのパイロットだったあいつに殺されたんだよな。」
もう一度その事実を確認しあって、二人は故人に思いを馳せるのだった。
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ペーパー小説の没ネタ。
ディアッカとミリアリアは友情関係が好きらしいです。どうも。
ディアッカもミリアリアもキラLOVEなのよと言いたいらしい(笑)いえ、ディアミリ好きなんですけどね……