いくらパイロットスーツを着ているとはいえハッチの開閉時の危険は重々承知しているだろうに、妙に慌てたように一心不乱に飛んでくる。
それがアスランだなんて誰が思うだろう。
BOY'S BEAT
「もう艦の中だから……気脈が確保できるまで少し待ってくれ。」
ヴェサリウスに無事ストライクを着艦させて、ついでに持ってきたジンも整備班に任せつつキラに声を掛ける。
自分ひとりならさっさと出るんだが、こくんと頷くキラはパイロットスーツどころか宇宙服を着ていない。普通に生活するだけの気密服でもなんでもない私服だ。
よくよくミゲルがストライクに移ったときに死ななかったものだと感心する。機体が単純な作りだったら今頃真空に触れ呼吸が止まっていることだろう。
何はともあれ一任務終えたのだしヘルメットだけでも取るかと手をかけた瞬間。
「キラっ!」
「だーアスランっこいつパイロットスーツ着てないんだぞ!」
物凄い勢いで飛んできたアスランはさっさと出さなければ無理やりこじ開けそうな勢いで思わず叫ぶ。
MSというものは大概それが可能になっているから今の状況ではたちが悪かった。
まずは空気状態を確認してからでなくては出せはしない。
格納庫は宇宙に繋がる。真空の世界に。
気脈が確保されていなければパイロットスーツを着ているミゲルやアスランはともかくキラは間違いなく死ぬ。
「大丈夫だ。もうハッチは閉じている。」
アスランの言葉を信じたわけではないが、きちんと外の様子を確かめてから不安げに見上げてくる子犬のような視線に微笑んでやって、コックピットを開く。
知り合い(らしい)アスランのところにさっさと行きたいと言い出さないあたり信用してくれたのか、単に言い出せないだけなのか。
わからないがともかく手を引いてアスランが待つ外に連れ出した。
「キラっ」
「アスランっ……アスランっ……」
せっかく泣き止んだ涙をまた流して。
涙声で縋りつくキラをアスランは愛しそうに抱きしめている。
男同士だというのに絵的にはそう醜悪ではないのは二人の容姿が整っているせいか、それともキラが女っぽい所為か。
つうか……
これは生き別れの兄弟の再会か?
それとも戦争で分かれなければならなかった恋人たちの再会か!?
あまりのラブラブっぷりに一瞬頭を抱えた。
「目が赤いな。泣いたのか?」
「泣いてないよ!アスランもそう言うんだから……」
「俺”も”?」
「あーおふたりさん。知り合いなのは分かったからちょっと離れろ。」
不満そうなアスランときょとんとしたキラがそろって顔をミゲルに向ける。
アスランは意識的にやっているようだが、キラの方は当たり前のことを止められてどうしたのかと言う感じで、ちょっと問題あり。
(多分てか絶対アスランの仕業だろ……)
この鈍さは。
彼らの関係など知らないが、そう確信できるような関係を垣間見てしまった。
「ほら、隊長に報告もしなけりゃなんないだろ?」
「隊長には報告した。」
「手回しいいな、お前……」
じと目で見やれば、いやといつもよりもなお爽やかにアスランは言った。
「ただ後にしてくれるように頼んでは来たが。」
それは脅しだ、とミゲルは思わなくも無かったが、視線が怖いのでやめておく。
「ならなおさら軍服に着替える余裕くらいあるだろ?」
お互いに色こそ違うがパイロットスーツのままであることを指摘すればしかたなしでも黙る。それに気をよくしてアスランからキラに視線を移す。
「ってことでキラ。行くぞ。」
「えっはっはい。ミゲルさんっ。」
「あ〜ミゲルでいいって。」
ぽんぽんと軽く頭をなでてやればぱたぱたと後を着いて来るキラに、アスランは不振げというか不満そうというか。
「なんでミゲルがキラとそんなに仲がいいんだ。」
「ストライクの中で友好深めたんだよ。」
な、と同意を促せばニッコリとキラは笑う。アスランの不機嫌など意にも介していないところがかなり貴重だと思った。
クルーゼ隊に入ってというか軍に入って後、こんな癒し系の笑顔は見たことが無い。
容姿で選んでいるんじゃないかと巷で囁かれているクルーゼ隊なだけあって、ごつい男の群れでもないが――――
(性格に問題ありだからな……)
アスラン然りイザーク然り。とりあえずディアッカは問題外。
ニコルは顔だけならキラに負けず劣らず可愛いタイプだが、可愛らしい性格ではない。
そう思うとかなり……
さらさらと揺れる茶色の髪もきらきらと輝く紫の瞳も性格を現していて。
(う〜ん貴重だな……)
キラの笑顔に癒されながらやはりアスランの視線が痛かった。