ぐすん。
ぐすん。
と。
奇妙な声がした。
BOY'S BEAT
男……だよな?
ストライクのコックピットに滑り込んで、ミゲルは思わずそう思った。
民間人だと聞いてはいた。
どのくらいの信憑性があるのかはさておき、アスランは確証もなく無謀なことをする奴でもさせる奴でもない。
泣いているのもあいまって女に見えたりもするんだが、少なくとも着ているものは男物だ。
「アスラン?」
涙にぬれる紫の瞳が振り向いた。
だが、名前を呼んだものではないと気づいたのか身を硬くして距離をとろうとした。
といっても狭いコックピットだ。
そうそう動けるわけでもない。
なんでアスランを知っているのかと思わないでもないが、アスランから通信が通じるのならこっちにも映像つきで送られるのだろう。
「……だれ、ですか?」
怯えたように身を縮込ませる少年になんてこたえようかなんて思いつつ。
「何泣いてるんだ?」
口をついて出たのは
「ええっと・……」
ごしごしごし。
「泣いてません!」
手でこすって、赤くなった目で言い切った。
(いや……思いっきり泣いてんの)
そんな反応にたぶん怖かったのだろうとは容易に想像がついた。
訓練された自分のような軍人とは違い、こいつが民間人だとしたら、あきらかにはじめてのことで。
戦場、というものは死ぬかもしれないという恐怖と殺すという恐怖と二つ感じるものだ。
そう想像がつくからこそ。
「なんでこんなのに乗ってるんだよ……」
今聞けば二度手間どころか三度手間、四度手間くらいはかかる。
それでも聞かずにはいられないくらいにそれは理解不能な事態だった。
「僕はモルゲンレーテ経営のカレッジの学生だったんです。」
「今日もモルゲンレーテにある教授の研究室に行っていたんですけど……」
女の子が走ってどこかに行ってしまって、それを追いかけてたはいいがシェルターに空きが一つしかなくて、別の場所にいこうとしたらもうそれがなくて。
突っ切っていこうとした途中に会った工場区は戦闘まっただなかで、逃げるために乗せられた、と。
「……ってことは俺の機体落としたのはお前か。」
ストライクに乗っていたのだから当たり前である。
「えぇ!あれに乗ってたのあなただったんですか!?」
ごめんなさいっとあわてて頭を下げるのが可笑しい。
こんなやつに落とされたのか、と情けなくも思い。
頭を振る。
ずいぶんとお人よしな話だ。
というのが感想。
ストライクをあれだけ扱えたくせに、それにしてはずいぶんと間抜け。
「とりあえず、ヴェサリウスに帰るしかないな。」
早く行かないとアスランが怖いことだし。
「ザフトですか?」
「俺一応ザフト兵だしな。」
不安そうな顔をした少年に肩をすくめてそう答える。
仕方がないのだ。
ヘリオポリスはもうないのだから。
このあたりにオーブのコロニーはないし、あったとしても下ろしてほっぽり出すわけには行かない。
返すためにもある程度力のある組織にいたほうが安全なのだ。
まぁそんなことまで気にする必要もないといえばそうなのだが。
危なっかしくて放って置けない。
厄介なことを、と思わなくもないが……
「名前聞いてなかったな。」
心を開いてもらうための第一歩とばかりに名前を聞く。
「キラです。キラ・ヤマト。」
緊張がほぐれたかどうかはわからないが、名前をこたえるときは少しだけ笑顔が見えた。