あの船が落ちた瞬間。
彼女は悪魔に身を売ったのだ。
囁き続ける声、に。
シークレット・ソウル
押し付けた体は、硬い胸板ではなくて思いもかけない弾力のある胸に受け止められた。
戦闘配備中のロッカールームには彼女と”キラ”しかいない。
だからやはりこれはキラの感触であって。そろそろと顔を幾分かだけ高い位置に向ければどこか困ったような笑みを浮かべたキラの顔があった。
それがフレイは気に入らなかった。どこか取り繕ったような笑みがムカつく。
「あんた……」
驚愕に目を見開くフレイに異変を感じてキラは一歩後ずさる。
それを許さずにフレイは腕をつかむ。
「あの…フレイ……」
放して欲しい、とその瞳は言っているのだけれど、もちろん目的を終えるまで放すつもりなんて無い。
細い腕。
軍服を着ていてもこうして握ってしまえばわかってしまう。
綺麗な顔。
でもコーディネイターはそういうものなのだと思てた。
だけど。
サイに抱きつくのとは本当にぜんぜん違う。
男ならこの体欲しいでしょう?
彼女は自分の少女らしく育った体が武器になることくらい自覚している。
少女らしく。女らしく。
媚を売る。
そうしてでもやらなくちゃいけないことがあったから。
だからそうやって見せ付けるように抱きついたというのに。
「まさかあんたが女だったなんて……」
確認の意味をこめて呟いた言葉にキラはバッと顔を上げた。
その瞳の中から何かを読み取ろうとするようにキラの泣きそうな目が伺っている。
誰かに言わないという確証か。それとも……嫌悪を探すか。
こんなことになってまでずっと隠してたのだから。
「知られたくないの?」
彼女は問う。
キラは頷く。
「知られるのが怖いの?」
また問いと肯定。
怯えている様が良く分かる。
いつだって笑みを貼り付けるくらいの余裕を持っていたキラが。
それを見て彼女はにっこりと笑う。
「いいわ。守ってあげる。」
潤み始めた瞳が驚きに見開かれる。
信じられないだろうか?
信じられないだろう。
だからタダじゃなくて。
「キラがザフトから私を守ってくれたら。」
それは今しようとしていることと変わらない。
どのみちキラがここに残るとしたらストライクに乗るしかないのだから。
「それでいいの?」
「いいのよ。」
だからあんたは私を守って、ね?
それは契約。
それとも取引?
どちでもいいわ。
「約束、しましょう?」
そうして。
おずおずと差し出された指に彼女はにっこりと笑って指を絡めた。