シークレット・ソウル
アークエンジェルがザフトに投降した。
弾薬も尽き、火気のほとんどは使用不能だ。
食料も水も危ういというのに補給できるポイントは近くには無い。
もともと孤立無援のアークエンジェルに降伏以外の道は無かったのだ。
だからこの戦艦を預かる艦長は決断した。
そうして戦うでなく降伏を選んだ最大の理由は……
眠る少女を彼女は一人真剣に見つめる。
具合が悪いのか、少女の顔は白い。
もともと細い体躯だったけれど痩せている、というよりは「憔悴した」だとか「やつれた」という言葉のほうがしっくり来る。
なのに点滴もなく、そばに医者もいず、いるのはただ彼女だけだ。
「キラ……」
さらさらとその髪を梳きながら囁く。
彼女の赤い髪とは違い少女の栗色の髪は一見少年のように短く切られているが、紛れも無い女であることを彼女だけは知っていた。
他の誰でもない彼女だけが。
「大丈夫よ。私が守るから。」
閉じられた瞳は反応を返さない。
いつもならば紫色の瞳に穏やかな笑みを浮かべて安心させるように微笑んでくれるのだけれど。
緊張の糸が途切れた今はただ眠るだけだ。
「約束、だから。」
それでも彼女は囁く。
ほんの少し前。指に指を絡めて。
契約を交わした。
約束を果たした。
ザフトの攻撃という命の危険から彼女を守り、自分を守る。
降伏が受け入れられたのならキラの役目はもう終わり。
後は……
疲れきったキラを守るのは私。
「だから安心して休んでなさいね。」
ストライクを駆ってきた少年――――否、少女は。
ずっと混沌の中に意識を沈めている。
これが無為に沈むことなく降伏を選んだ理由。
最大にして最後の戦力がないのでは戦っても一矢も報いれないことを経験から彼らは悟っていた。
「不沈艦」と噂されようとも、「死を運ぶ船」と言われようとも。
結局はただ一人の少女の力に頼っていたに過ぎない。
「待っててね。」
医務室の扉が静かに閉じる。
眠る少女一人、残して。