シークレット・ソウル
恐怖を紛らわせるためのぼそぼそとした囁きは纏まればそれなりに響く。
何を言っているのかは聞き取れなくても声という音は耳は入るものだ。
扉の開く音。
ざわめきは一瞬の息を呑むと共にピタリと収まって少年たちを迎え入れた。
赤い――――深紅の軍服。
なかなかお目にかかれない鮮やかな色彩を持った4人の少年たちは堂に入った態度でそれを着ていた。
息を呑んだのは彼らがあまりにも若かったからだ。
このくらいの年頃で前線に出るものがいることを事実としてしってはいるが、あんなにも苦しめられたGシリーズのパイロットが子供だと思っている元学生の志願兵たちと同じくらいの少年だなんて言うやはり衝撃だ。
”キラ”もまた彼らと同じ年頃だというのに。
リーダー格なのか、イージスから降りた少年が彼らを見渡してから一瞬眉を顰め静まり返った格納庫内に淡々と言葉を放つ。
「ストライクのパイロットはどこだ?」
『誰だ』ではなく『何処だ』と聞いたことにまで誰も違和感を感じる余裕が無い。
それはここには居ないことが分かるからこそ言える台詞だ。
この戦艦に乗る乗組員すべてを制圧者である彼らは格納庫に集めたのだから。
なのにそんなおかしな問い。
彼と共に来た少年たちの方も気づいてはいない。
ただ反応の無い彼らを見てやきもきと待つばかりだ。
憧れとは違う。
興味。
憎悪とは違う。
興味。
好みとは違う。
興味。
持つ感情は違えどストライクのパイロットに興味があることは同じで。
それゆえにここについてきたようなものだ。
「誰も知らないのか?」
そんなことあるはずが無いと。
「それとも言えないか?」
「医務室よ。」
反応できたのは彼女だけだ。
「フレイ!?」
不振、驚愕、怒り。
掛けられた声と向けられた瞳がそれを語っても彼女は姿勢を変えない。
「どうせ見つかっちゃうんだもの。言っておいたほうがいいでしょう?」
そう言ってキッと”彼”を見据える。
「それともあの子だけ扱いが違うとでも言うわけ?」
仲間である地球軍に対する牽制か。
それともザフトに対する牽制か。
彼女の視線はただそれを聞いた少年のみに向いている。
なぜなら彼の特徴が。
「医務室に行くぞ。」
「連れてこさせればいい。」
なぜわざわざ出向かなければならないのかと銀髪の少年は問う。
それに彼は呆れたような視線を返す。
「それができないから医務室にいるんだろう。」
今度こそため息。
「医務室なんかでなにをやるって言うんだ?」
逃げるための算段か。
一矢報いるための計画か。
それともただ単に震えているだけか。
「悪あがきだ!」
「可能性は低いな。ここで暴れてなんになる?すでに足つきは投降し制圧されているんだ。」
MSなどというものは帰るべき母艦がなければ宇宙ではすぐに沈む。
補給ができなければバッテリーもすぐに切れるし、そうなればこの果ての無い真空の空間を漂うだけだ。敵に会えば撃ち殺されるだろう。救助される可能性は極めて少ない。
そもそも足掻いたとして、ストライクに乗りこめるわけでもない。
そんな危険を冒すよりも捕虜として一時つかまり後に条約にのっとって返還されるのを期待するほうが生存の確率は高い。
もっとも彼はそうでなくともそんなことはありえないと知っていたけれど。
そして彼がもっとも不安とするのは。
「それに今回ストライクが出てこなかったのをイザークも知っているだろう。」
それがなぜか、考えてみろと言われてイザークは憮然とする。
確かにその前後のことも考えれば―――前回の戦闘ではストライクにたいそうな修理が必要なほどの被弾はない―――医務室にいるというのは病気か怪我かはしらないが、パイロットはその体調の問題でとにかく出撃ができなかったのだ。
”夜の帳のような紺の髪”
”綺麗な宝石みたいな翠の瞳”
フレイは彼らが話す間中キラの言葉を繰り返し思い出しながらそれを見ていた。
嬉しそうに語るキラ。
その後で彼との戦闘でしょんぼりとするキラ。
彼がそうであるのか。
彼がキラの語るままの彼であるのか。
ストライクのパイロットのことを話す反応をじっと見る。
「”アスラン”?」
出て行こうとしていた少年は驚いたような顔で振り返る。
その後に続く少年たちもまた訝しげにこちらを見ていた。
それは肯定だとフレイは悟る。
「そう、あんたが”アスラン”ね。」