シークレット・ソウル
「アルスター二等兵?」
艦長だという女が訝しげに赤い髪の女を見る。
”アスラン”とは誰か。この目の前の少年か。だとしたら何故知っているのか。
意味合いで言えばそんなところだろう。
それにも答えずに赤い髪をした少女はただこちらを見据えて繰り返す。
「キラは医務室に居るわ。」
”アスラン”であると確認を取ったからか言葉を変えて。
キラ、と呼ぶ親しげな響きと、投降したのだというのにこの態度の大きさからして、間違いなくヘリオポリスから乗ったという学生たちの一人だろう。
(もっとも今は地球軍のようだがな。)
そのピンク色の制服を見てアスランは嘲るように唇を吊り上げる。
愚かなナチュラル。
キラを巻き込んで縛り付ける存在たち。
「でもあんたは絶対に会わせない。」
燃えるような瞳。
何故そんな瞳が向けられるのかわからない。
敵に向ける―――ナチュラルがコーディネイターに向ける瞳というには強すぎる。
ナチュラルはえてしてコーディネイターに劣等感でも持っているのか怯えの色が強く出る。
このような一方的に拘束された状態ならばなおのこと。
「会わせないもなにもお前にそんな権限は無い。」
会うも会わないも現在この場で責任者の立場に会うアスラン次第だ。捕虜の一兵士の女などに左右されない。
顔も知らぬストライクのパイロットに会いたいと思うのならばまた別だろうが、生憎とアスランはキラを知っていた。その記憶は三年前のもので、現在のキラを生身で見たのなどほんの一瞬に過ぎないが、間違えない自信がある。見つけられる自信がある。
だが綺麗に無視して女は問いを向けた。
「あなたはイージスのパイロットの”アスラン”?それともキラの幼馴染の”アスラン”?」
舌打ちをしたい気分だ。
イザークたちは知らない。ニコルですら知らない。
ストライクのパイロットの正体を。自分と彼とのつながりを。
「どっちでもキラにとっては同じだけど、私には違うの。”イージスのパイロット”だというのならどんなことをしてもキラに近づかせたりしないわ。」
「いい加減に……」
「教えてあげましょうか。」
挑戦的に笑んで少女は言う。
「あんたの所為でキラがここに居るのよ。」
何を言うのだろうか。
あまりにも馬鹿らしくて哂う。
「俺の、所為?」
可笑しくて、愚かしくて。
あまりにも馬鹿らしい。キラが俺と戦う理由などこの女を初め目の前にいるものたちの所為だと決まっているのに。
何故、そこに俺がでてくる。
戦いたくないとキラは言っていたのに。
君と戦いたいわけじゃない、と。
争いごと自体が嫌いなキラ。だから守るためでもなければそんなこと、するはずがないのに。
だけれど彼女は言うのだ。
「そう、あんたの所為よ。」
「お前たちの罪を人に擦り付けないでもらいたい。」
やれやれ、とでも言いたげに女はその強い視線のまま言い捨てる。
「女心なんてまったく分かってないわね。」
この朴念仁、と少女が鼻を鳴らす。
疑問を言葉にする前に。
「その様子じゃキラが女だってこともしらないんでしょう!」
「……なんだって」
アークエンジェルのクルーも。
ザフトの兵士も。
キラの友人も。
全てが動きを止める。
「キラが……女?」
自分の知るキラは男だ。
華奢で細くて、少女じみた女顔で。
それでも間違いなく男だった。
”親友”だった。
彼が知らないのだと彼女は知っていた。
それを知っているのは彼女だけだった。
契約を交わしたフレイだけ。
でももしかしたら、と思ったのだ。
(でもやっぱり知らなかった。)
優越感と不安感。
キラが信じてくれているのが自分だけだという安心と誰も助けてはくれないのだという恐怖。
「ほら。幼馴染っていったって何にもしらないんじゃない!」
勝ち誇ったような、怒ったような声音。
どこか複雑な思いでフレイは叫んだ。