オリビアの太陽
| 流されることのない涙。 彼らは知らない。 月の様な微笑みの中にある悲しみを。 彼らは知ることはない。 その種族の違いゆえに。 その物理的な距離ゆえに。 地球軍の勢力範囲のコロニーに地球軍新型戦艦アークエンジェルはいた。 戦闘の後はひどく気が沈む。 あたりまえだ。 友達を相手に戦っているのだから。 その話を彼は扉越しに聞いた。 「ではっ!キラ君を兵器として扱えと仰るのですか!」 通信機の前で3人の仕官たちはあるものは声を上げて非難し、あるものは眉を顰め、あるものは顔をしかめる。 どの表情にも共通するのはたった今命令されたその言葉を拒絶するもの。 『何を言っているのかね?それ以外になんの使い道があるというんだね?』 幸いなことに映像は送られては来ない。 こちらの映像も送られることはない。 「それは人道的な配慮があまりになさすぎると思いますが。」 『人道的?コーディネイターにそんなものが必要なのかね?』 それは。 人であることを否定する言葉。 『所詮コーディネイターなど道具に過ぎんよ。』 『ムウ・ラ・フラガ大尉。』 「ハッ」 仕方なしに声だけはまじめに聞こえるように返事を返す。 顔に浮かぶ表情は明らかに嫌悪の感情を表していたが。 『君にはそれについて特務を与えよう。』 (いらねーよそんなの) 思っても言えることではなく。 その扉のそばから走り去った人影を知らず。 不愉快な通信は続く。 なんでなんでなんで。 どうして…… コーディネイターだからいけないの? 守りたいのは地球軍なんかじゃなくて。 ここにある友達の命。 マリューさんもフラガ大尉もナタルさんも。 このアークエンジェルの人はそれなりに気を使ってくれているけれど。 だからこそ守りたいと思うこともあるけれど。 あなたたちは自分で戦えるじゃないか。 自分で戦争を選んだんじゃないか。 なのにどうして。 僕を巻き込むの? ふらふらと漂う儚げな少年を見つけて彼は呼び止めた。 コーディネイターもナチュラルも関係ないと言って優しくしてくれる大切な友達。 「キラ?」 名前を呼んだのは大切な友達。 でも、彼はナチュラル。 『彼』ではありえない。 わかってる。 その手を振り払ったのは僕。 ここに君が来てくれるはずもないし、いては困る。 それでも。 タスケテ…… 声は知らぬ間に。 封じ込めた思いと名前と。 「キラ?大丈夫か?」 気遣う声に微笑を残し。 「なんでもないよ。大丈夫だよ。トール。」 彼はなかない。 太陽であるために。 |