オリビアの太陽
通信を終えて、マリューは肩の力を抜く。 疲れた。 戦闘の後のようにけだるい脱力感が身を襲う。 「可哀相な子。」 それを強いている自分に同情する資格なんてありはしないけれど。 戦って傷ついて。 誰にも知られない傷を負う。 それでも笑う子。 「ごめんなさい。」 誰に聞かせるでもなく彼女は彼に謝罪の言葉を紡ぐ。 今までのことと、これからのことと。 『コーディネイターは兵器だ。 向こうから飛び込んできてくれたんだ。使わなくてどうするね?』 『所詮はまがい物。作られた命。使うしか価値などないだろう。』 違うっと思うのに。 キラ君はコーディネイターだけれどそんな そんな不条理な命令に吐き気がして。 でも逆らうことなどできなくて。 「ごめんね。」 本当に。 許してとは言わないから。 「ごめんなさいね。」 守ってくれたことにきっと永遠に感謝の言葉は言えないから。 せめて謝罪の言葉を。 足取りが重い。 その告げられた命令に嫌悪感を催す。 『君には”それ”を繋ぎとめておく任務を与える。』 「友人がいるんですから問題ないでしょう?」 これ以上の負担をあたえるなんて冗談じゃない。 十分に傷ついているのに。 できるなら合流する前に降ろしてやりたいと願うほどに。 無理なことは重々承知だ。 軍人としての彼の意識はキラの能力の必要性を高くみている。 傷つけても、利用しても。 手放すわけにはいかないのだ。 今の状態では。 『オーブの民間人をずっと乗せておくわけにはいくまい?』 それは当然少年たちのことを考えたわけじゃなくて。 政治的に問題沙汰にされないための配慮。 『けれど逃げられてはならない。』 戦わせるのだ。 地球軍の手の内にある唯一のコーディネイターを。 『そのために”それ”をつなぎとめておくことくらい君ならわけないだろう?「エンディミオンの鷹」。』 ふざけるなと怒鳴りたい。 つなぎ止めるといえば聞こえはいいが、ようはそれなしではいられなくしろと。 ―――抱けというのだ。 なにも自分がそれを実行することはない。 所詮はなれた安全な基地にいる人間にどうこうできるわけはないのだから。 けれど。 それでも。 従わなければならない。 『君がだめなら無理にとは言わん。もうすぐ補給部隊が到着するだろう。』 厄介なことだ。 理想もなく、利害だけで動く意地汚い上層部。 同じ軍人であるといわれるのも吐き気がする。 『あの少年くらい器量がよければいくらでも欲しがる者はいるだろうからね。』 そんなことさせてたまるか。 くそくらえ。 当然のことと思うはずだった。 彼の力は自分たちが生き残ることに必要であることは明らかだ。 この戦力のない戦艦を見ろ。 選り好みなんて出来る余裕はなく。 その高い能力は貴重だった。 親を盾にとってでも。 そう思っていた。 それほどに戦わせることに異論はないはずだったのに。 『あれは兵器だ。』 無理やりにでも戦わせろと。 どんな手段をとってでも。 『決して逃すな。』 命令された内容に吐き気がする。 ラミアス艦長は甘いと確かに思うが。 それでも下った命令とその言いようはひどく不快だった。 |