久しぶりの休暇に近いものにキラはゆっくりと寝てから暇にあかせて今日は何をしようかと考える。
シンやレイやルナマリアといった生徒が居なければキラは本来わりと暇なのだ。
しかもインパルスやミネルバがなければ多少依頼されたプログラムはあるとしても、そう時間をとられるものでもない。
「どうしようかなぁ……」
今頭の中に浮かぶプランは二つで、違うのはピンクか銀かでそのどちらもいく先は同じだった。
階段の上の人≪策≫
暇だからと押しかけた軍本部で捕まえた(むしろ捕まえられた)シホに入った通信を聞き、ガチャンとティーカップをソーサーに叩きつけるように戻して椅子から思い切りよく立ち上がる。
「ミネルバが追撃に出たぁ!?」
「アーモリー・ワンで新型のMSが強奪されたらしく、その追捕のようです。」
淡々と復唱してくれるシホを前に頭を抱えてキラはずるずると座り込む。
慌しいその反応を諌めるでもなく宥めるでもなく、シホはぶつぶつとつぶやくキラの独り言に耳を傾けた。
「……インパルスの調整終わってないし、ミネルバだって最終調整終わってないんだよ!?」
そりゃ一応航行に問題はないだろうけれど、戦闘なんて聞いていない。一番必要のないと思った火気系統は一応のシステム構築はしたけれど重火器に不具合が起きたらどうするか。
考えれば顔が青ざめる。いや、それくらい整備士たちでなんとか出来るだろうけれど。
「ずいぶん危なかったようだけど無事だそうです。」
「あーやっぱりぃぃぃ……」
がっくりと肩を落としてキラはテーブルに突っ伏す。
何よりも経験不足なのだあのクルーは。アークエンジェルだってそうだったけれど、それでも戦時中の優秀な人間で構成されていたし、かかっているのが自分の命だっただけに強かったのだと思う。
なによりキラ自身が民間人であったのと、戦争を経験したのでは90度くらい視点が変わる。今のキラに頼りなく見えるのは当たり前のことだ。
「インパルスやカスタマイズ済みのザクが落ちた情報は入っていません。」
「ああ、うん……よかった。」
カスタマイズ済み、と断ったあたり普通のザクは落ちたものもあるのだ。
きっと知り合いだろう。ミネルバに乗るクルーのほとんど―――――とくにパイロットと整備士は。
喜んではいけないのだろうが、実際の教え子たちの無事には安堵せずにいられない。
「ずいぶんと入れ込んでいるんですね。」
「教え子だからね。」
生意気だったけど可愛いよ、と微笑むキラにシホもほのぼのとして笑む。
pipipipi...
タイミングよくやって来た通信にシホは失礼、と断ってから一度席を立ち手持ちの端末で回線を繋げた。
軍の指令なら聞いていても別段困ったことにはならないが、一応の礼儀としてキラは意識を紅茶に集中させる。
インスタントでないのか、小さい茶色い葉っぱが下に沈んでいるのを見てカップを揺らしてみる。
くるくると回りながらあがってくる葉は小さくはあるけれど、広がって少し大きくなっている。
「……贅沢。」
いつも議長のところで出されるのはきっとこんなものでは済まされないほど高いものなのだろうけど。
これは絶対イザークの趣味だとジュール隊お達しの休憩室を眺めた。
「……シホ・ハーネンフース了解しました。」
だからキラは小さく目を見張り、復唱したことに気づかなかった。
戻ってきて浅く椅子に座りなおしたシホは残っていた紅茶を呷る。
「すぐに戻らなければならなくなりました。」
「ジュール隊も追捕?」
いいえと首を振り、シホは若干落とした口調で言った。
「それとは別にユニウスセブンで問題が発生したようです。」
「ユニウウスセブン……?」
こくりと一つ重々しげに彼女は頷く。
「ユニウスセブンが地球に向けて動いているそうです。その破砕作業をジュール隊が命じられました。」
「じゃあシホも早く行かないと……」
大きく目を見開いて驚きを示してから、妙に落ち着いたようで落ち着いていない台詞に混乱が伺われた。
地球に向けて動いている―――――それはこのままいけば地球に落ちるということだ。
その情報にシホだとて明確な説明を受けていず、困惑がある。だが、地球にはキラの大切なものがたくさんあるのだ。キラが動揺するのも無理はない。
だが、シホは冷静でそれによるメリットを示した。
「ジュール隊も破砕作業に出ますが、ミネルバも合流するそうです。」
何を言わんとしているのかすぐにキラはピンと来た。だが、任務があるというのに彼女の上司がそれを許すかどうかは別物で。
あの怒鳴り声は別に怖くはないが、ちょっと耳が痛い。まあそれはたいした問題ではないけれど。
「放り出されない?」
彼はやる。やるといったらやる。
出向前はもちろん、ミネルバに合流するためにはMSは不可欠だが、MSなどがあったら宇宙空間だって放りだしそうだ。軍人でないキラがそうして放り出されて無事に帰りつけるかははなはだ疑問だ。なにせキラの身元を証明してくれる議長は今、所在地不明なのだ。
「単機での帰投が難しいほど離れてしまえば降りろとは言われないでしょう。」
それまではシホの部屋にでも隠れていればいい、と。もちろんデュエルは隠せないけれど、ジュール隊にデュエルがあろうとわざわざ隊長に報告するような者は居ない。ジュール隊におけるデュエルは特別なのだ。
ぱぁぁと笑顔が顔面に広がって。
「シホ大好き!」
満更でも無さそうにシホはキラの頭を撫でた。
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<策-サク->
ジュール隊には可愛がられる方向で。
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