ボルテールに戻るイザークとディアッカに手を振って、他にも母艦に戻るMSたちを見送る。
帰るのは最後でいい。というか教え子たちが帰るのを確認してから。
それでなくては意味が無くて。
やっと見つけたインパルスにどうしてあの子は無茶苦茶なんだろうと画面を見ながら頭を捻る。
猪突猛進というか、単純というか。
被弾して先に戻ったルナマリアはともかくレイはちゃんと信号弾に従って戻ったのに。
「教え方間違ったかなぁ……?」
仕方が無い、といえば仕方が無い。
だってそんなところも気に入っているところなのだ。
そもそも教えているのがキラだというところで、まず無茶は直せない。
落ちていく機体を追って、迷わずキラも重力の勢力範囲に機体を躍らせる。

――――――さあ、義務と権利が交差する。


階段の上の人≪篝≫


「シン、落ち着いて。体制を直すんだ。」
『キラ!?』
「そうだよそれ以外の誰だって言うのさ」
『なんであんたが此処に!!』
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ。早く立て直して!インパルスのスペックなら単機降下にも十分耐えられる。」
『くそっ……こんなこと演習じゃやらなかっただろ!!』
「やらなきゃ死ぬだけだよ!」
くそっと悪態をついて真面目に立て直し始めたシンからメインカメラを外し、画面に引っかかったザクを見て苛立たしげに声を荒げる。
「ああっもう、なんて無茶なザクだよっ。」
本来ジンに大気圏を降下できるほどのスペックはない。しかも大分ぼろぼろで、今にも壊れそうだ。まず大気圏の摩擦に耐えられない。
かつてストライクで単機降下を果たしたことのあるキラだからその辛さはよく分かる。
「シン、あのザク保護できる?かなりガタが来ててあのままじゃ持たない……けどデュエルのスラスターじゃ無理だ。」
『やってます!一応知らない人じゃないし。』
「そっか。じゃよろしくね。」
キラの方もインパルスより劣る性能でかつてよりも安全に降下するために、他人の心配よりも自分の心配をしなくてはならなかった。


***


大気圏を抜け、ミネルバが安定した途端、未だ帰ってきていない2機の機体を探しだす。
やがて引っかかった反応に眉を顰めることになど想像もしていなかった。
「これは……インパルス……いや……」
「光学映像出せる?」
「はい、待ってください。」
視覚で分かるくらい大きく画面に映し出された機体を見て安堵の息を吐く。
だがその側にもう一機。ミネルバ所属の物ではない機体。
「あれは……」
「デュエルっ!?」
他の誰よりも先にカガリの声が響く。
見忘れるわけが無い。見間違えるわけが無い。
かつてそれを見、絶叫し、怒った。
それと戦い、それと守った。
ブリッツを除けば一番縁の薄い機体ではあるけれど。
「Xナンバーは全て破棄されたのではなかったのか!?」
それは条約で決まったわけではない。
イージス、ブリッツは既に破損して無く、ストライクもまた同様に無くなった。残ったのはバスターとデュエルだけで、それも損傷が激しかった。
実際がどうであれ最後までザフト陣営で戦っていたデュエルはともかく彼女らの陣営にいたバスターは当然外聞が悪く、ザフトに戻った彼らにしてもそれを使うわけには行かなかった。
もはやXナンバーは地球軍の象徴なのだ。
地球軍のストライクダガーが良い例だ。
だから乗られる必要性のないその二機は破棄された、と聞いていた。
だが……ならばあれは。

「一体どういうことだ!?」

驚愕にか、苛立たしげにも聞こえるカガリの叫びに答えられるものはいなかった。

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