一人が人生の汚点を刻むとき。
もう一人はお姫様と共に楽しみの準備なんぞをしていたりした。

WOMAN

「こんなもんか?」
「あら。そっくりですわ。」

鏡に映った自分の姿を見ながら後ろで優雅にお茶を飲む桃色の髪をした少女に問いかけると、ふんわりと答えが返った。

金色の髪は今は茶色のウィッグの陰に隠れて見えない。
金に近い褐色の瞳もカラーコンタクトで紫に変えてあり、ぱっと見彼女の身代わりとして侍女たちに進呈された少年を思わせる。
雰囲気がまったく違うので見るものが見れば本人ではないと分かってしまうが。

「ラクスは変装しなくていいのか?」

本来なら一番見つかってはまずい人のはずだ。
プラントでは知らない者はいないというほど彼女の顔はしられているし、軍人の婚約者もいる。
それがアスランだと聞いたときカガリは驚き不憫がった。
若い身空であんな変態の婚約者だなんてラクスが可愛そうだ。というのが一つ。もう一つの理由は奴がキラ以外眼中に無いキラ馬鹿だとあの無人島の一件で知っているからだ。
好きなのかどうかはしらないが、自分以外に心奪われた婚約者なんて嫌に決まっている。
だがカガリがアスランを知っていると知ってラクスはにっこりとわらったのだ。
アスランはあれで面白いんですのよ、と。
カガリの言外に込められた後者の理由に気づいているのかいないのか(絶対前者だ)かみ合っているんだかいないんだか良く分からない受け答えだった。

とにかく今回のザフトの目的はオーブでもアークエンジェルでもなくラクスなのである。それは軍人ならばちょっとはアークエンジェルも探すかもしれないが。
なのにトレードマークの髪もハロも隠そうともせずのほほんと笑っているのだ。
心配にもなる。

「ええ。このまま出て少し引っ張り回さなければなりませんでしょう?」

くすくすとそれはそれは楽しそうに微笑むラクス。

「私はずっと一緒に居るからな!」

そしてもしものときは守ってやる、と。
勇ましくカガリは言う。

「ありがとうございます。ですがおつきの方がお探しになっているようですが?」

「げっやばいっ!」

キラをよく知るものなら彼女をキラと見間違えないのと同様、カガリを良く知るものはカガリだと気づくだろう。ラクスといればなおさら。
まったくタイプの違うお姫様同士だが、二人が仲がよいのは周知の事実になっているのだから。

「すまん!また後で!」
「ええ。いってらっしゃいませ。」

手を振って走り去っていくカガリを見送りながらカップの中の紅茶を飲み干す。
そうしてキラよりよっぽど男らしいですわぁと思いつつ、彼女も立ち上がる。

ずっとここでのほほんとしているわけにはいかない。
それはそれで構わないが、せっかくのお膳立てが無駄になってしまうからだ。

「そんなのつまりませんわ。」

誰に言うでもなくつぶやいたラクスは人が(ザフトが)集まりそうな工場区へと足を進めた。






まあまさかこんなに都合よくいくとはさすがのラクスも思わなかったけれど。






「ほう……これはこれは。こんなところでお会いするとは思いませんでしたな。」

「あら。」

くるりと振り向いて、その声の主と相対したラクスはピンクの妖精とあだ名される笑みではなく、誰とでも対戦できる笑みで見上げてみせた。










一方。キラも早速ピンチを迎えていた。

「カガリ・ユラ・アスハです。」

優雅に一礼して見せ、笑みも浮かべるのはカガリには難しい芸当だ。(礼はともかく笑うのは)
だが曖昧な笑みを常に浮かべることに慣れたキラなら問題ない。
むしろ儚ささえ感じさせる可憐な風情は本人よりお姫様らしくみえた、とは本人たちの名誉のために内緒にしておこう。
キラの目の前に集まったのはザフト対応用のモルゲンレーテ社の社員とオーブ軍の軍人だ。
カガリとして顔合わせをし、指示をださねばならないのだ。
マニュアルがあるからそれ自体はそう難しい行為ではないが、女の子の格好をしているということにやはり抵抗があり、緊張にこわばりながらもキラは視線を感じて仕方が無かった。

(気のせい……じゃ、ない?)

そうは思ってもここにいるのは一人二人ではないし、きょろきょろと見回すわけにもいかない。
もしかしたら本人ではないと気づかれたかもしれない(影武者であることは一部の人間しか知らないのだ)。
気を引き締めないとキラが思い直す間に話はどんどん進んでいた。
話といっても今回のための補充のメンバーだけが一人一人挨拶をするだけなのだが。

「アステル・ザーラです。」

きれいな顔に綺麗な笑みを浮かべる女性。
紺色の髪に翠の瞳のコーディナイターなんていう符号の一致と。

(名前もなんかちょっと変えれば聞いたことがあるような……)

それでなくともぞわぞわと悪寒が走る現象に知っているような知っていたくないような、いや〜な予感を感じざるを得なかった。

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