だらだらと冷や汗を流しながら、キラは目の前の美女から目を放すわけにはいかなかった。
WOMAN
だらだらと背筋に流れるいや〜な汗を感じつつ、無視してみようと努力しようと試みたのだが。
「キラっ!」
努力はあっけなくもその一言で崩された。
「いや、僕はカガリなんだって!」
一人称を僕といっている時点で間違っているがこの際あせったキラと興奮状態のアスランと本来のカガリの男らしさをしるオーブの人間と、何がなんだかわかっていないモルゲンレーテの人間とではそんな細かいところを気にしたりはしない。
だいたいにしてキラにそんな器用なことを求めるのは間違っている。
「ああ。俺のためにこんな格好までして待っててくれたのか。キラ!」
「僕のは仕事だ!」
思わず叫ぶ。
この際仕事もどうだっていい。
アスランのために女装してるなんて名誉既存以外の何者でもない。
だいたい。
「君だって……君だって…キミダッテ???」
あまりに違和感なく着こなしていたためと、あまりにも普通に(?)喋り出したためにこっちも違和感なく普通に話していたが。―――それはキラも同様なのだが、本人の自覚がないあたりがタイプの差といえよう。
「アッアッアスラン!?」
やっと現実を見る余裕を取り戻したキラはアスランのその異常な格好を認識して固まった。
いや。別にアスラン自体は変でもなんでもない。
周りから見れば異常でもなんでもなく、美女でしかない。
「似合うだろう?」
「似合うけど!!」
あくまで平然としているアスランと今にも泣きそうなキラ。
そりゃ泣きそうにもなるだろう。
ただでさえ最近変態が入っていたのに、こんな、こんな……
「女装癖があったなんて!」
かっこいい、という記憶はとうに薄れてきて、ただただ過保護で行き過ぎた親友のイメージが強かっただけに半泣きだ。
「安心しろキラ。これは俺の趣味ではなく父上の趣味だ。」
至極真面目に、アスランは返す。
ごめんアスランそれむしろ安心できない。
あの厳格で、頑固そうなおじさんが……
「……女装趣味……」
「ああ。あとロリコン疑惑があがっている。」
普通の親子なら否定するところにもアスランは更なる衝撃の噂を並べてみせる。
これがザラ親子が親子たる証だろう。
使えるものはなんでも使う。
キラから自分の女装疑惑を払拭するためならとことん使う。
そのわりに女装疑惑を植えつけるようなことも平然と言っているが。
なのにず〜んと落ち込んでしまったキラにアスランは困惑顔だ。
「だって君、おじさんにそっくりだったじゃないか。」
「キラ。それは俺への侮辱とみなすけど?」
真剣な瞳にいまだにザラという強大な名前に抵抗を持っていたのかと、やっぱり変わっていないのかと安堵したのもつかの間。
それに、と彼は続ける。
「俺は自分が女装するよりキラにさせるほうがいい。」
「やっぱりそっくりじゃないか〜〜〜!!!」
心底真面目に放たれた言葉にはまったく持って安心できる要素が一つも無かった。