扉を開けてまず見えた光景に。
あるものは絶句し。
あるものは目を逸らし。
そしてあるものは満足そうな笑顔で微笑んだ。

WOMAN

寒いくらいに微笑む美女と、その腕の中で暴れる美少女。
その正体をしらなければ眼福なのだが……

「アスランっ!?貴様なにをしている!」

慣れたのか、割り切ったのか。
一瞬の沈黙の後、イザークは一番最初にまともな反応としてそう叫んだ。
これが本当に女だったならなんと言うのか知らないが、間違いなくセクハラだ。

「アスランだと。アスラン!!あれがか!?」

イザークの叫びにキラに変体行為を曝す女がアスランだと知り、またその所為でイザークの拘束が弱まったこともありカガリは勢いよくラクスを振り向く。

「ラクスっ!?一体全体なにが大丈夫なんだ!?」
「あらあら。思ったより

やかましい少年少女の疑問も愛しい者を手にし、トリップしてしまったアスランには届かない。
ラクスがその気になれば引き戻すこともできようが、あいにくと彼女にその意思はないようだった。
ニコルとディアッカにいたっては引き戻す気などさらさらない。
巻き込まれてたまるかという心境だ。
だが、もう一人チャレンジャーは残る。

「アスラン。これは?」

内心はどうであれ仮面に隠された顔は不気味に、怒鳴るでもなく喚くでもないクルーゼの声はアスランにも届いたらしかった。
さっと立ち上がり、右手を敬礼の形に上げてどこか緩んだ顔を真面目に作り直して淡々と報告する。
この辺りはさすがに軍人だ。

「国防委員長の命によりモルゲンレーテへ潜入したところストライクのパイロットを発見し、拘束・保護しました。」

……片腕でキラの腰を抱き寄せたままではあったけれど。

「「保護、だと?」」

瞬間。
意味合いの違う二つの声が重なる。

「ストライクのパイロットが何故保護だ!」
「何が保護だお前のところのほうがよっぽど危険だ!」

きょとんとした風に二人……特にカガリの方をじっと見て、しばらくの後アスランはああと手を打った。

「イザークに…カガリか?いったいいつそんなに意気投合したんだ。」

「「してないっ」」

声を揃えて否定して、そうしてアスランは兎も角お互いに食って掛かろうとしたところ。

「ちょっと待ってください。」

正直そんなことはどうでもいいニコルはだが、聞き逃せないワードを聞いたような気がしてうるさい二人の子供のけんかにストップをかける。

「その人がストライクのパイロットなんですか?」

ビクリと身を震わせてそれまで必死に逃げようともがいていた少女はアスランの腕の中でその動きを止める。
事実だから怖いのか。まともな神経を持ち合わせた軍人ならば恐怖か敵意それ相応の感情を感じるはずだ。
だが震えたのは一瞬で、覗き込んだ瞳からはそのどちらも―――特に敵意は―――浮かんではいなかった。それでも少女の代わりに答えるのは質問を向けられたアスランだ。

「ああ。ヘリオポリスの学生をしていたが巻き込まれてストライクに乗ることになったコーディネイターのキラ・ヤマト。」
「キラって……」

そろってイザークが連れてきた少年の方を振り返る。
カガリの今の格好とその反応を見ればアスランには簡単に何がどうなっているのかわかった。
予想通りの行動に苦笑する。

「そっちはカガリ。お前たちも知っているだろう。」

さらに訝しげになった3人の同僚に答えを下す。

「オーブのカガリ・ユラ・アスハだ。」

「「「なんだって!?」」」

「これがか!?」
「オーブのお姫様がこれか?」
「……あなたが、ですか?」

「お前らっ!しかもその色黒のお前。お姫様言うな!!」
「だって、お姫様なんだろ?」
「カガリだ!地位がそうでもそういった女の子女の子した呼び方は寒気がする!」
「……変わったお嬢さんで……」
「それもやめろ!」

「ディアッカ。それくらいにしておけ。」

思わぬところからストップが入る。
奇妙に静かで、奇妙に笑みを浮かべる男は地球軍の軍服を着た格好のオーブの姫―――カガリに向き直っていつもの怪しい声音で言う。

「それはそれは。ずいぶんと都合の良いことになった。」
「キラは渡さないぞ。」
「今のこの状況を見てから言っていただきたいものですな。」

丁寧ではあるが、嘲笑うような慇懃無礼なクルーゼの態度にカガリが負けそうになるがすぐさま助けの手は伸ばされた。

「私の説得だけだったはずです。」
「ラクス嬢。」
「キラ様とカガリ様に触れることは許しません。」

クルーゼとラクスとの攻防にアスランは口を挟むことにする。
ラクスに阻まれてはキラをヴェサリウスに連れて帰れないことに思い至ったのだ。
頭が冷えたのか冷静に見えるが、意識はひたすらキラ獲得に向いていた。

「許さない、と仰られますが今のあなたに何ができると?」

軍人でない彼女にこの場の権限はない。
だが笑みを深めて最強の歌姫は口を開く。

「アスラン。私はあなたの趣味を知りショックのあまりプラントを飛び出してまいりましたのよ。」
「は?」

趣味と言われ浮かぶのはハロ作りだ。アスラン自身も同僚も。
だが彼女はハロを気に入っていたのではなかったか。
その証拠に今も常に愛らしいが間抜けな球形のペットロボをつれている。

「たしかにわたくしとあなたの遺伝子が対にあるがゆえの婚約でしかありません。ですが……」

一度言葉を切り、視線をキラにずらしてからまたひたとアスランを見つめる。

「わたくし自分を絶対に愛してくれない男などごめんですわ。」
「ラクス?それは貴方もおなじことでしょう。」
「わたくしは今愛していないというだけで未来など分かりません。ですが男にしか興味のないアスランでは一生ありえませんでしょう?」

爆弾発言だった。

根の葉もないうわさなら―――とくに女性関係の噂ならば―――誰もが一笑に付しただろう。良きにつけ悪きにつけアスラン・ザラとはそういう男だ。
朴念仁で甲斐性なし。
だが、この目の前の光景を見せえられたら一笑にふすわけにもいかない。

「……ラクス……」

静かに、嵐の前を思わせる静けさで婚約者の名前を呼んだアスランは静かなまま口を開く。
ラクスの爆弾発言にキラは茫然自失の状態でアスランの腕の中、固まっている。

「確かにキラは男ですが、それはキラがたまたま男であるというだけで俺が男にしか興味がないと取られるのは心外なのですが?」
「あら。キラ様にしか興味がないのですからその通りでしょう?」

アスランはキラにしか興味がない。
事実であるし、自覚もあるから彼は否定はしない。否定しろよとキラから突っ込みは飛んでくるであろうが、生憎と彼はまだ現実逃避から戻ってこないのだから突っ込みのしようがない。
そしてその対象がたまたまにしても女のように可愛らしかったとしても、男であるという事実は変わらず。

「アイドルに口で勝とうなどというのは100年早いですわ。」

納得してしまい言い返せなくなったアスランにラクスはにっこりと勝利の微笑をくれた。


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