マリオネットの踊る庭



ヘリオポリスで地球軍から新型MSを奪取したという功績を持つクルーゼ隊が乗るヴェサリウスは現在宇宙の只中を探索していた。
MS5機は奪取したとはいえ彼らが「足つき」と呼ぶ新型戦艦はのらりくらりとすり抜けていくためプラントに帰るにはまだまだ時間が掛かるだろうと予測されていた。
もともと目的をヘリオポリスに絞って物資などは当分は必要ないくらいにはつんである。
だから足つきを追うのに問題はないはず。

……なのだが。

「近々一人この艦に来ることになっている。」

若きエースパイロットである4人の少年たちを前に、仮面を被った一人だけ白い軍服に身を包んだ男が告げた。
ラスティー、ミゲル、といった仲間は戦死してしまい補給のせんならパイロットのみのである。
ああ。技術者ということもあるか、と少年たちは思った。
奪取したXナンバーは機体自体はたいそうなものだが、OSがお粗末でどうしようもないのだ。
彼らはその手のことも自分で出来るように訓練されてはいたが、やはり専門家というものがどこにでもいるのだ。

「パイロットですか?」

一番幼い少年が尋ねる。

「そうであるし、それだけではないのだよ。それに正式にこの隊に入るわけではない。しばらくは行動を共にしてもらうことになるがね。」

それはひどく不思議な言葉だった。

首をかしげる部下たちに口元に刻んだ笑みを浮かべて

「奇麗な綺麗なお人形さ。」

その言葉に潜む思惑に気づくものはいない。
仮面に隠された真意は幼い彼らにはまだ窺い知るにはいたらなかった。

「楽しみにしていたまえ。」












「どういうことでしょうか?」
「さあな。本人に会えばわかるんじゃねーの?」

あまり人に興味を示すところのないアスランとイザークは自分からその人物について喋ろうとはしないが、ニコルとディアッカは興味深々で。
そしてやっぱり二人の意見も聞きたくなるのだ。

「アスランはどう思いますか?」

問われて人形と言われた言葉からアスランは答えた。

「さぁ……人形っていうくらいだから綺麗なんだろう。」

当たり障りのないというか面白みのない答えで。

「イザークはどう思う?」
「ふん。戦力は期待できそうもないな。」

パイロットでもあるという言葉からイザークは答えた。
なんとも棘のある言葉で。
もっともイザークはいつものことではあるが。

「……つまりませんね……」

あまりに薄い反応にむくれるニコルにくつくつとディアッカが笑う。

「まあどうせすぐ来るんだろ?」

その時になればいやでもわかると。

ただ面白い奴が良いなと思う少年と。
優しい人だといいと思う少年と。
関係ないと思う少年と。
気にも留めない少年と。

このときはそれがたいそうなことなんて思うわけがない。


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