マリオネットの踊る庭



それは赤でもなく緑でもなく。
白い軍服。
指揮官程度の権限を持つもののみが許されるエリートとは違う、けれど確かに地位のある証。

この隊の隊長であるクルーゼとヴェサリウスの艦長であるアデスに『彼』は挟まれていた。
クルーゼの態度は面白がっているところはあるがあくまで慇懃で、アデスも一歩引いたような微妙な位置で、その扱いはどこか恭しくもある。

彼は軍服が似合わない少年だった。
少年と言えるのは彼がスカートではなくズボンを着用していたからに過ぎない。
少女のようにも見える中世的な顔立ち。
さらさらのブラウンの髪も、優しげな紫の瞳も、軍人とは思えない細さも。
空気自体が透明で儚い存在。

「キラ・ヤマトです。」

柔らかい表情。
全てをひきつける笑み。

「この間言っていただろう。彼がその人物だ。」

ここに集められて、上官二人に挟まれた彼を見た瞬間にわかってはいたものの、それはやっぱり驚きだった。
人のことは言えないけれど、ニコルはまさかこんな人が、と思わずにはいられない。
イメージだけだけれどそのくらい軍人なんて似合わない人だと思う。
いつものディアッカの軽口を借りれば毛色の違う猫が紛れ込んだようだ。
真っ白な何の穢れもない綺麗な猫が。

「彼がクルーゼ隊に入るというよりは君達に護衛を任せるということになるかもしれんな。」
「護衛ですか?」

確かに彼の儚さは守らなくてはいけないような気がするけれど。
それでも彼は軍人なのではないのだろうか?

「彼は人形だといっただろう?」

人形に戦わせることなんてない。
人形はあくまで人形。
言われたとおりに踊るだけ。
予定外の穢れなんて背負っちゃいけない。

「よろしくお願いします。」

彼は笑う。
人形といわれたにも関わらず、それには何も反応しないで。
それが虚勢なのか、何も感じないのか分からないけれど。

イザークは不快だった。
ニコルはなんだか分からないまま悲しくなった。
ディアッカはそんな少年を観察したまま。

「キ……ラ……?」

ただ一人。
何の反応も出来ずに。
固まったまま動けずにいた少年は。

信じられないように、その名を呟いた。


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