マリオネットの踊る庭



「以上だ。」

クルーゼは簡単な説明を終えて言葉を切った。

「クルーゼ隊長!」

我慢できずにイザークは怒鳴るように食って掛かる。

「その軍服を着ているということはそれなりの実力があるということですか!?」

そうは見えない。
自分たちが護衛をしなければいけないというのも納得いかない。
ただの人形ならプラントでやっていればいい。
宇宙にまで―――前線にまでそんな飯事をもってこられてはたまらない。

「共に戦うわけでもない相手の力量など知る必要はあるまい?」
「ですが……」

仮にも上官であることを示すその軍服に身を包んでいるのだったら自分より上であると納得できるような実力を示してもらわねば従えない。
自分たちはエリートなのだ。
ヘリオポリスで実証されたように親の権力だけでない実力がある。

引き下がる様子を見せないイザークに、そして表立っては何も言わないまでも不満そうなディアッカと不振を覚えているらしいニコルに仕方がないとクルーゼは言った。

「護衛をする相手の能力をいちいち確認するのかね?
たとえばラクス・クライン。君たち……特にアスランは護衛に付いたこともあるだろう?」

吸い付かれるように人形から視線をずらさないアスランは答えることが出来なかった。
答えのないアスランに仮面の奥で苦笑して続ける。

「彼女に「どのくらい戦えますか?」などと聞くことはしないだろう?」
「彼女とそいつとでは事情が違います!」
「そうかな?」

ラクス・クライン嬢に護衛がつけられるのは彼女がプラントの象徴である「歌姫」だからだ。もちろん評議委員長の娘という点も無きにしも非ずだが、それだけならばわざわざ軍が個人のために動くこともない。
どうように彼女の親や、ここにいる彼らの親―――つまりはプラントの要人たちであったら?

守る対象に「戦えるか」と聞いた人間はいないだろう。

パトリック・ザラやシーゲル・クラインならば銃の扱いは知っているだろう。
だからこそ聞くまでもないことだ。
「歌姫」である彼女にそんなことを聞くのは愚かなことだ。
そのたおやかな容姿の癒しの歌姫に自分の身を守るためとはいえ戦う姿を想像するのは困難なことだ。

ならば目の前の少年は?

「能力が「歌うこと」ではない。けれどアイドルならいくらでも生み出せるのだよ。」

評議員のように地位が高いわけではない、歌姫と同じようにたおやかな白い人。
立場ならラクスのような象徴的な立場に近いマリオネット。

「イザーク。これは決定事項なのだよ。」

それは明らかに彼らの権限を越えた―――口を挟むことすら許されぬ領域。
ぎりぎりと歯切りをしてくだんの少年を睨みつける。
アスランのように受け流すわけではなく、ただその紫の瞳はその鋭い視線すら受け止めていないかのように空虚なままだ。その事実にまた苛立つ。

「ああ、しばらくはイザーク、ディアッカ、ニコルもヴェサリウスに搭乗したまえ。解散だ。」









クルーゼの出て行ったブリーフィングルームで。
誰も出て行くことが出来ず。
誰も言葉を発することが出来ず。
一種緊迫した空気が漂っている中で。

「認めないぞ。」

それはクルーゼ隊長に向けられたものではなく、自分のことだというのに穏やかに笑んだまま何も言わない少年に向けたもの。
不快の原因はその感情が感じられない儚い笑み。
人形といわれてすら何も返さない人間にむける侮蔑。

「認めていただく必要はありません。」

穏やかに。
けれどきっぱりと。

「私はやるべきことをするだけです。その妨げにならないのならかまいません。」

個として認められる必要などないと。
やっと彼自身から告げられた言葉に息を呑む。

だってそれは。

意外なほどに強い意志を含んでいたから。



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