汝、忘れることなかれ
その白をベースとしたトリコロールの機体はオーブの上層部、およびモルゲンレーテの技術者にはよく知った無視できないものだった。
X105”ストライク”
地球軍新型MS。
ヘリオポリスで作られたオーブ製のしろもの。
中立であるはずのオーブの裏切りの証。
「キラっ」
引っ張り出したキラはひどく錯乱していた。
「カガリっカガリ カガリ カガリっ!!」
必死に名前を呼んで。
必死にしがみ付いてくる。
「大丈夫だ。大丈夫だから。」
なだめるように抱きしめてけれど震えるキラは何かに耐えられないように叫んだ。
「僕が殺した!」
彼女から出るには恐ろしく似合わない言葉にそこに居た全員がぎょっとする。
けれどそれが真実であることを示すストライク。
彼女の錯乱具合からもそれはとても真実味のあることで。
「助けて!」
崩れ落ちるキラを抱きとめてその意を聞いたカガリが鋭く叫ぶ。
「医療班!」
すぐさまキラに駆け寄ろうとした担架を血まみれの二人に向かうように指示をだす。
「助けて」とキラが願った人間。
着ているパイロットスーツからしてザフトの人間なのだろう。
多分キラが”殺した”と戦った奴ら。
敵だったから戦って、自分も死ぬわけにはいかなくて。
でも殺せなくて自分の所為だからと守ってきた。
そんな情景が見えるようだ。
「そいつら絶対助けろよ!」
キラに傷を残さないために。
キラが嘆くことがないように。
自分を責めて自分を傷つけないように。
「ぜったいぜったい!死なせるな!」
彼女の綺麗な手が汚れることがないように。
優しくキラを抱きしめたままカガリはそう声を張り上げた。
肉体的な怪我はないし、病院に行かせるより自室で寝かせたほうが落ち着けるとキラは自室のベットの上に運ばれた。
医者は後で呼べばいいし、検査が必要なら落ち着いてから病院にいかせればいい。
栗色の髪を梳きながら、確かにキラはもともと食が細くて細かったけれど、これはやつれたと思う。
「おまえに何があったんだ?」
怒りに震える声でカガリは眠るキラに問う。
その怒りの矛先は。
オーブがあんなものを作ったから。
地球軍があんなところでMSなんて作らせるから。
ザフトが中立国なのに攻めてきたから!
けれど本当は自分が一番情けないのだ。
(私が行けばよかったんだ)
そうすればキラがこんな目にあうことなんてなかった。
私ならMSは操れないからそこまで追い詰められることはないし、武器の扱いを訓練されているぶん耐性があると思う。
それにオーブの姫という立場を全面的に有効利用できる。
「ごめん、な。」
ささやくように口にしてそうしたら。
キラの瞼が瞬いた。
「大丈夫か?どっか痛いとことかあるか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
紫の瞳は開かれているけどぼんやりとしたままで。
そうして音を発さない。
「キラ……?」
パクパク。
口を開いて何か言っているのに聞こえないことにキラと二人目を見開く。
「声が出ないのか?」
悲しそうにコクンと。
頷いたキラを慌ててとどめる。
「ちょっと待ってろよ。」
言い置いて立ち上がるとデスクを漁るとパソコンしかないのに舌打ちをして部屋の外を警備している者に言いつけて紙とペンを頼んだ。
いつの世もどれだけ情報化が進もうとも変わらず存在する紙に文字を書くという原始的な方法だ。
「私は喋る。何か言いたいことがあったらそれに書けよ。」
キラはまた一つ頷いてそしてすぐにペンを取った。
そうしてさらさらと書かれた言葉。
<あなたは誰?>
無邪気な問いに顔をこわばらせた。