オリビアの太陽
ザフト高速船。ナスカ級ヴェサリウス内のブリーフィングルーム。 一人白い軍服を着た仮面の男を中心に、その部下である赤い軍服を着た少年たちが5人並んでいた。 クルーゼ隊と呼ばれるクルーゼ率いる彼らの目下の任務及び問題は地球軍の新型兵器ヘリオポリスから彼らが奪取したXナンバー最後の一機「ストライク」を要する足つきでだった。 そう、彼らの任務は足つきの撃破であり、ストライクの撃破である。 少なくとも今までそうやってイザークはやってきた。 けれど。 「今回の任務は。足つきを落とすことではない。」 いつもの通りに穏やかな口調で。 仮面で隠した顔面の中で唯一見える口元は楽しげに歪められている。 その口から吐き出された命令は。 「足つきに囚われたオーブの民間人の保護だ。」 民間人が乗っているという事実は驚きではあるが。 「ナチュラルのためにわざわざ動くというのですか!」 どうせ保護したとしても怯えるだけだ。 決して感謝なんぞしなければ保護されただなんて思いはしないだろう。 オーブの民間人といえどしょせんはナチュラルだ。 こちらとしてもそんなことはごめんだ。 「確かに民間人ではあるが、同胞もいるのだよ。」 声高に反論するイザークになおいっそう笑みを深めて。 「たとえばストライクのパイロット。」 ハッとディアッカがクルーゼの顔を見る。 イザークも反論をやめて。 ただニコルとアスランの表情に動きはない。 「おかしいとは思わなかったかね?」 ザフトのエリートパイロットを4人も相手にして決して勝つとはいえなくてもすり抜けるストライク。 そんなこと「ありえない」のだ。 ナチュラルとコーディネイターでは潜在能力が違う。 これは遺伝子上どうしようもないことで。 訓練を積める量も質もコーディネイターの方が断然高い。 そうして深まる格差。 まれに「エンディミオンの鷹」ムウ・ラ・フラガのようにMAで複数のジンを相手取れるほどのパイロットもいる。 だが。 彼が乗ったとしてもストライクはあんな風には動くまい。 ナチュラルに合わせたOSが開発されない限り。 現段階でのそれはまず無理だ。 なにしろデータがないのだから。 のせられる戦闘データがないのだからそんなOSなど考えられない。 「納得したかね?」 「ですがっ……なぜ今になって……」 「保護する必要が出来たからだよ。」 それ以外の答えなど必要がないかのように。 説明する義務もない。 彼は上官だ。 部下の納得いくように一から十までを説明する必要などなかった。 そもそも説明「できること」と「できないこと」があるのは軍にあれば当然だ。 さて、と彼の中で予定の刻限を見て話を具体的に変える。 「イザークとアスランは潜入して民間人をポットにて連れ出せ。ストライクに乗せられたくらいだ非難ポットの場所くらい知っているだろう。ニコルはブリッツで二人の輸送を。ディアッカはおとりだ。派手にやってくれたまえ。」 「はっ!」 そして揃う。 「「「「ザフトのために!」」」」 「なんだっていうんだ!」 「さて、ね。」 ストライクのパイロットがコーディネイターだと? それが本当ならどうして今更それを言う? 言う、言わないの問題は政治的な関連があるとして。 だが保護する理由など、ない。 撃破を唱えておきながら今頃その命令を翻すとは。 いったい何を考えておられるのか…… 「アスランとニコルもだ。」 分からないのはあの二人もだ。 日ごろから確かに平和主義てきな臆病者だが…… 特にニコルは撃破よりも保護の方が好むところだとは思うが…… だが、相手はストライクのパイロットだぞ? ヘリオポリス崩壊からずっと追ってきた相手で。 一番身近なところではミゲルを殺した相手。 それを驚くこともなく、反発するわけでなく。 知っていたというのか? 「どーでもいいけどね。実害がなけりゃさ。」 「これが実害以外の何者だ?」 「そりゃ違いないね。」 肩をすくめるディアッカもイザークと同じ意見だ。 ストライクのパイロットの保護。 それは害以外の何者でもない。 そう。ストライクを撃破してこその足つきへの攻撃。 戦って勝ってこその敵だ。 「くそっ……」 (何より一番の実害はイザークの癇癪かもね。) 荒々しいののしりと、ため息が一つづつ。 |