オリビアの太陽
カツンと長靴を鳴らして敬礼する。 「アスラン・ザラです。お話があり出頭しました。」 「なんの用だね?」 彼の用事など一つしかないであろうことは想像しつつ、クルーゼは聞いた。 「ストライクのパイロットについてですが……」 ニコルに聞いて件を告げて、キラに戦意がないこと、ナチュラルに利用されていること並べ立てる。 それで簡単に分かってくれる上官だとは思ってはいないのだろうが、彼ならばわかってくれるかもしれないという甘い考えもあるのだろう。 日ごろの行いの賜物か。 『信頼』という点ではどうか知らないが、少なくとも『尊敬』の対象にはなっている。 軍において強さは『尊敬』される。 人間性など見ようともしない。 柔和な仮面の裏に隠しておけば誰も気づかないのだから。 面白いものだ。 「君は撃つと言ったのではなかったかね?」 「はい。ですがっ……」 「いまさら決心が鈍ったとでも?」 畳み掛けるように言われて言葉を飲み込む。 明らかに鈍ったなどと言えるわけがない。 軍に忠実でつねに優等生で来たアスランにそんなことが出来るわけがないのだ。 「ここはアカデミーでもなく戦場なのだがね。」 「……わかっています……」 それでも譲れないものがあって。 軍規を無視してでも。 上官に逆らってでも。 手にいれたいものがあって。 守りたいものがあって。 そうしてそのためにはこうして頭を下げねばならない場面もあるのだ。 押し黙ったアスランにクルーゼはしばし待つ。 どんな反応が出てくるのか、興味深いところではあった。 ただ睨み付ける様に鋭い視線。 なんと言われようと引くことがないのだと。 言葉にせずに言う。 「いいだろう。」 こんなにもこのアスラン・ザラを動かせる人間はいない。 親であっても。 それが生死を共にした事のある仲間でさえも。 死ねば涙を流すし、母の死に怒りを抱いて戦いもする。 それでも。 それはお義理というか、どこか隔たりがある。 完璧には誰も彼の内側に入り込めないし、彼もそれを望まない。 それが、だ。 今のアスランはどうだ? 命令無視の出撃。その後の命令無視の捕縛。極めつけは今の嘆願。 私のように物で隠すことはないが、無表情というなの仮面を被っているアスランがあのストライクだけには並々ならない興味を示すのだ。 「80分後にブリーフィングルームに集合だ。」 使えるのなら使ってやろう。 アスランを動かす駒として。 そうして君という駒が動くのだよ。 「ありがとうございます!」 ほっとしたようなまだ手に入れたわけでもないのに安堵したようなアスランに、まだまだ甘いと思うのだ。 アスランが出て行ったのを確認するとパソコンの電源を入れる。 80分。 調べるのにはそれくらいで十分だろう。 仮面に覆われていない口元が笑みの形につりあがる。 「さて。ストライクのパイロット……キラ・ヤマトはどんなものを持っているか……」 立ち上げられた画面に膨大な文字が流れる。 さて、どんなカードが出てくるか。 面白いカードを期待しているよ。 |