オリビアの太陽
アークエンジェル補給ポイント、コロニーL3。 『アスラン、イザーク。早急にお願いしますね。』 「ああ。」 「わかっている。」 最後の打ち合わせをして、ニコルとの通信を切った二人は外にでた。 補給のために降り立ったアークエンジェルになら生身でも忍び込める。 そのために少々危険性は伴うが、補給地点まで待ったのだ。 まったくナチュラルと裏切り者のためになんてどうかしているとイザークとディアッカは毒づいた。 それでも隊長の命令に逆らえるはずがなく。 しぶしぶと任務に出たのだった。 新造艦だというのにずいぶんとお粗末なセキュリティーをらくらくと突破し、足つき内に進入する。 保護する民間人がいる可能性が高いのは住居区、士官室、食堂、ドック。 普通の民間人ならば住居区なのだろうが、ストライクに乗っているというのだから分からない。 アークエンジェルの構造と内実を知らない彼らに目的がどこにいるかなど分かるはずもないのだが。 「こっちだ。」 迷いもなくアスランはただまっすぐに進んでいく。 さすがに人に見つからないよう警戒は怠ってはいないが。 いったいなんだと言うんだ…… 腕につけた端末をいじりながらアスランは素早く確実にキラの居る場所へと向かっていた。 別にキラとテレパシーで繋がってるだとか、キラのことなら何でも分かるとか、そんなナンセンスな理由ではない。 種を明かせばその仕掛けはとても簡単。 トリィだ。 遠くにいればNジャマーの影響で使えないが、同じ館内くらいの距離ならば十分に機能する。 それは頭も良いのにどこかぼけていて時々迷子になるキラのためにつけた機能だった。 迷子……というのとは違うのかもしれない。けれど時々ふいっといなくなるのだ。 そうなったとき探し出せるのはアスランだけで。 そして自分が居なくなってしまった時に困らないように。 おばさんにいまアスランが腕にしているような端末を渡してあった。 子供が作ったにしてはやけに高性能で、さすがねと苦笑されたものだ。 それが今役に立つなんて。 ピタリと止まる。 「ここだ。」 端末の示すポイントが一致する。 「間違いない。」 アスランの奇妙な自信におされてか、イザークは別段反論もしなかった。 士官室であるその部屋に入る前にいったん止まって背負ってきた道具の中から一つ機材を取り出して熱量を伺う。 「二人分か……」 一人はキラとして、もう一人は友人かキラを見張る仕官かどちらかだろう。 前者だったら良いが、後者である場合のほうがこの場合強い。 「どうする気だ?」 イザークの言葉に「ナチュラルの軍人ぐらい片付ければいい」というニュアンスが含まれる。 そう。一人ぐらいならば自分たち二人に掛かればそう問題ではない。 だが、騒ぎを起こすのはまずい。 (どうするか……) ここにキラがいるのに。 もうすぐ会えるのに。 そう思って、じりじりと焼けるような焦燥を感じながら伺っていると。 金髪の男が一人出て行くのを見る。 肩の勲章をちらりと見てそれが大尉だと何とはなしに覚えた。 その男がふと立ち止まる。 (気づかれたか……?) だが、ため息を残しただけでこっちを見た様子もなく去って行った。 十分な距離を見送って。 「行くぞ。」 イザークの言葉にその部屋へと二人は踏み込んだのだった。 静かな部屋だった。 人がいるとは思えないほどに。 視線を奥まで伸ばせば。 置かれたトレイ。 その食事は手をつけられていない。 そうしてベットの上に投げ出された手足。 青い地球軍の軍服に包まれた華奢な人影。 その肌は信じられないほど白く。 「………キラっ!」 思わず叫んだ。 「キラっ!」 何故 なぜ ナゼ! もともと細かった彼であったけれど。 それでもこれほどまでにやせ衰えるほど病弱でも虚弱でもなかった! 月みたいにかげりのある儚げなとこなんてなくて。 太陽みたいに笑っていたのに。 いくら気配を殺して入ってきたとはいえドアを開けるときの音はするし、アスランの叫び声もあったのに。 人が来ても気づかないほどに死んだように眠る。 何があった? 「キラっ!」 「黙れ!アスラン。」 押し殺したようにイザークが言いながらアスランを抑える。 「隠密行動だぞ!ばれたらどうなるか分かっているんだろうな!」 「だがキラが!」 「黙れといっている!眠っているだけだろうが!」 「寝ているだけだと!?それが問題なんじゃないか!」 見ろ!とその白く細い儚い存在を指して。 これが普通の状態の人間がただ寝ているだけのように見えるのか、と。 「プラントに連れて帰ればすぐに良くなる!そこまで行かなくともヴェサリウスに連れて帰ればなんとでもなるだろう!」 アスランが動かないのならそいつを動かせばいいのだと思い当たり、無理やり引っ張った。 のだけれど。 「触るな!」 「なんだと!?」 振り払われた手に今度はイザークが声を高らかに荒げる。 「俺が連れて行く。」 いつもは無感動な瞳が爛々と輝いていて。 子を守る獣のようにそいつを守るように抱き込んで。 そのただならぬ様子に怒りを覚えはしたものの、任務を思い出して押しとどめる。 (立場が違うだろうが……) いつもいつも熱くなるのは俺のほうで。 涼しい顔をしたまま正論をふっかける優等生がアスランで。 (なんだというんだ……) まったくもってわけがわからない。 唯分かったのはこいつがストライクのパイロットだということと、アスランがコイツの知り合いだということだけだ。 |