オリビアの太陽
まだ、目がさめない。 きっと目を開ければそこは戦場。 真っ暗で。 狭いコックピットの中で君と戦うんだ。 それならまだいいね。 君に会えるんだから。 ねぇ。 アスラン…… アスランが見守る中、瞼がピクリとわずかに揺れた。 「キラ?」 君の声が聞こえる。 そんなはずがないのにね。 それでも感じたままの名前を口にする。 「……アスラン?」 「キラっ!」 疑問系の言葉に返される僕の名前。 触れるあったかいぬくもり。 これは夢? 会いたいという願望が見せた幻? どっちでもいいや。 君が居てくれるんだから。 「アスラン。早く殺してよ。」 聞こえたかなぁ。 ねぇ。 聞こえていたら次は殺して? 意識は再び沈む。 「なぜ……どうして?……キラっ」 俺はここにいるのに。 キラはもう戦わなくていいのに。 そのために君が戦う理由も全てもってきたんだから。 なのになぜ、殺せなんていう? 「俺」に。 残酷な願いだ。 握り返してくれた手をぎゅっと掴んで、動けずにいたら。 医務室の扉が開いた。 暗いその表情に入ってきた年下の同僚は驚いたように心配そうに首をかしげた。 「アスラン?どうか……」 しましたか?と問う前に、肩に顔を押し付ける。 軍服の肩の辺りは硬い生地で凹むことはない。 そうして出てきたのは我ながら弱弱しい声。 「キラが……」 それだけでニコルは察したようだった。 一度コックピットの中で聞いたからか。 ただ肩を貸してくれる。 泣きそう、だった。 年甲斐もなく、一番大切な人が敵でなく手で触れられる場所にいるのに。 夢うつつで言われた言葉が切なくて。 無性に泣きたくなった。 そんな状況に追い込んでくれたナチュラルに怒るよりも。 「『キラ』さんでいいんですよね。」 彼、とニコルは問う。 本人と自己紹介が出来ないのでアスランが呼ぶ名前だけが頼りだ。 もっともあまりにも何度も呼ぶからすぐに覚えてしまうけれど。 「どんな人だったんですか?」 「太陽みたいな奴、かな。」 「太陽……ですか?」 むしろ眠るその儚い面立ちは月を連想させるけれど。 「甘ったれで、お人よしで、でも陽だまりみたいに笑うんだ。」 覚えてる。 忘れたことなんかない。 キラの笑顔。 綺麗なままの、一番大切な思い出。 「言葉にするより顔に出て、嘘がつけなくて……」 「殺したくなんてない。」 たとえキラの願いでも。 「殺してくれなんてこの口から言わせたくない。」 「そうですね。」 この綺麗な人からそんな言葉が出るのは悲しい。 ただ眠る少年を見ながら、思う。 どうしたら君は笑ってくれる? そんな泣きそうな笑顔でなく。 |