オリビアの太陽
保護したのだと言っても彼がストライクのパイロットには変わりはない。 それなのに、意識不明をいいことに医務室に入れられたまま、奴は既に3日も放置されたままで居た。 別にそれはそれでいいのだ。 ディアッカはどうであれイザークは一応彼の顔を拝んだのだから。 気になるのはこの男の挙動不審な態度だった。 「いい加減説明して欲しいものだな。」 詰問調、というよりは呆れのほうが強い。 珍しく、本当に軍務や訓練でなく集まった赤服のパイロットたちは会話する余裕を得たのだ。 その機会を利用しない手はない。 「何を説明しろ、と?」 「決まっている。保護してきたコーディネイターの民間人だ。」 ”ストライクのパイロット”だとは言わない。 言えない。 認めたくはないのだと。 あんな奴と戦っていたことが、あんな線の細い奴がストライクに乗っていたことが、あんな奴に剣を向けてしまったことが、イザークには認めがたいのだ。 「知っていることなんてほとんどないさ。」 自嘲気味に笑うアスランに不振を覚える。 「貴様の変わり具合も執着具合も今さらだろう。」 知らないなんて言い訳は許さない。 誰が見ても、あれがアスラン・ザラだなんて信じられないくらいの執着。 彼が来てから任務の時間以外はほとんど常に医務室にこもっているのだという。 「お前もストライクには異常な執着を持っていたな。イザーク。」 睨むでもなく、だが淡々と。 殺気さえ滲ませてアスランは言った。 それに彼の危惧を悟る。 「馬鹿にするなよ。アスラン。」 危害を加えるんじゃないかと思っているのか、この馬鹿は。 あんなのを見てそれでなおあいつに怒りをぶつけられるほど大人気なくはない。 イザークが戦いたいのはクルーゼ隊のエリートが4機でかかっても落ちないストライクであり、意識も取り戻さない民間人ではない。 「だいたい俺がいつストライクに執着したというんだ!」 「いやぁ〜ずいぶんしてると思うけどな。」 憤然と言ったイザークに突っ込んだディアッカは睨みつけられて肩をすくめる。 そのやり取りにやっと警戒を解いたのかアスランはため息をつきつつ問うた。 「何が知りたいんだ?」 コーディネイターで民間人でストライクのパイロット。 隊長からもたらされたこの事実だけで別段問題はないはずだ。 あえて知りたがる理由は、興味。 「名前は?」 「キラ……キラ・ヤマトだ。」 くすりと笑って、思いもかけない柔らかい顔で。 「優秀で、馬鹿が吐ほどお人よしな奴だよ。」 「何故知っている?」 「幼馴染だ。月で一緒に……それこそ兄弟みたいに育った。」 「コーディネイターなのだろう?何故プラントに来なかった?」 オーブのように中立をうたう表向きコーディネイターの排斥のない国もあるが、そこもコーディネイターにとって暮らしやすい国ではない。 相対的な絶対数の割合から見ても仕方のないことではあるが、中立国はナチュラルが圧倒的に多かった。むしろナチュラルの中でコーディネイターを見つけるほうが稀だ。 だからこそこの戦争の図式はプラント対地球と言われるのであり、コーディネイター対ナチュラルだといわれるのだ。 会戦を恐れたコーディナイターはプラントに避難する。アスランもそうした中の一人だ。 ならばなぜ幼馴染であったキラ・ヤマトという少年はプラントに行かなかったのか。 「第一世代だから。」 答えは簡潔な一言で与えられた。 それは確かに理由になるに十分な要因だった。 彼らの年代では既に珍しい第一世代と呼ばれる、ナチュラルがコーディネイターの子供を欲しいと願って遺伝子操作をされたナチュラルから生まれたコーディネイター。 当然両親はナチュラルである。 プラントはコーディネイターの国である。 ナチュラルがコーディネイターに嫉妬して排斥したがるのと同じように、コーディネイターもまた、ナチュラルを排斥する。 相容れない種族。 だからまあ中立のコロニーにいたというのは納得できる。 「だからってなんでストライクなんかに乗るかねぇ……」 ディアッカのその呟きに。 「知っているのは3年前のことまでだ。」 突然に顔を硬貨させたアスランは言い捨てる。 「それ以降のあいつを俺は知らない。」 ストライクに乗るまでにどんな経過があったのかも。 どうしてあんなになるまで戦い続けなければいけなかったのかも。 あの戦艦で何があったのか―――どんな扱いをされたのかも。 「事情は知らなくたって体調位は知ってるんだろ?」 「知りたければ医務室に行って直接聞いて来い。俺からは言いたくない。」 言い捨てたアスランに驚いたようにディアッカは聞き返す。 「行ってもいいんだ?」 後で前言撤回されて殺されかけるのは遠慮したい。 そのくらいの執着をアスランはあいつに見せていた。 「聞きに行くのは軍医にだろう。それに……危害は加えないんだろう?」 「あたりまえだ!」 言い捨ててアスランとニコルを残してイザークはその部屋を出て行った。 |