オリビアの太陽
キラはいまいち働かない頭でなんとなく目を開けた。 それは久しぶりの覚醒。 ぼんやりとした思考の中で違和感を感じて、回りを見渡す。 白い壁。腕に刺さった点滴の針。 服は地球軍の青い軍服でなく、病人独特のぞろりとした白い服を着せられている。 倒れてしまったのだと知り、運んでくれたであろうフラガ大尉にまずいなぁと緊迫感なく思う。 自分が規格外にやせてしまったのをあの人は知っているからいいのだけれど。 そう思っていたのに。 否、そう思おうとしたのに。 決定的な差異。 「キラっ。」 駆け寄ってきたその人は。 夢にも見た人。 助けてって何度も思った人。 けれど絶対に生身の彼に会うわけにはいかなかった人。 「……アス…ラン……?」 彼が居るということは…… 「ここは……」 「ヴェサリウスだよ。」 『ヴェサリウス』それが何であるかは知らないけれど、アークエンジェルではないといくこと、アスランが乗っているということからしてザフトの艦であることだけは間違いようがなく。 「アークエンジェルは!?」 「大丈夫だ。キラの友達はみんな一緒に連れてきたから。」 「それでもっ……教えてアスラン!」 激しい焦燥。 マリューさん。ナタルさん。フラガ大尉。 ノイマンさん。トノムラさん。チャンドラさん。マードックさん。 守りたかったのは彼らではないはずだ。 だけど。 「どうして……」 なぜそんなことを気にかけるのか、と問うアスランにキラは答える。 「いい人たちだから。」 「”いい人”が友人を立てにとって民間人をMSに乗せたりするか!?揚句の果てに……」 言いかけてアスランはぎゅっと唇をかむ。 その行動に彼が自分に課された行為の一つを知っていることを知る。 一番知られたくなかった人。 「そっか……知らないわけがないよね。」 哀しそうに笑うキラにアスランは顔を思わず視線をずらす。 「メディカルチェックの時に聞いた。」 それきり落ちる沈黙。 体調のことも、この体が強いられた行為も知られているのだ。 もっともそれが強制かどうかなんてわかりはしないのだろうけれど。 誤解していたらどうしよう、とキラは思う。 けれど戦ったことが自分の意思だなんて絶対に言えなくて。 その沈黙に耐えかねたのか、キラは再び口を開く。 「確かに地球軍が好きなわけじゃないけど、本当にいい人たちなんだよ。」 それ以前に軍人であったけれど。 それでもきっとマシな方。 拘束されたのがあの人たちの船だったのは不幸中の幸いだ。 ナチュラルとコーディネイターの溝は深い。 こちらが気にしないといっても、相手が気にする。 自分よりも優れたものへの恐怖。 少数の異分子への軽視。 アスランも、キラの口ぶりからブルーコスモスのようにコーディネイターを排除しようとする最低のナチュラルではないことは察してはいた。 それはお人よしだとか、優しいだとかいうキラの性格だけでは説明がつかない。 たしかにキラは誰でも懐に入れてしまうようなお人よしだけど、それでも無条件に誰にでもなつくわけではないのだ。 だからこそのその感情は。 「足つきは沈める。」 「アスランっ……」 「それが俺たちの任務だ。」 言うだけ言って医務室を出て行く。 きっとキラは哀しそうな顔をしているだろうのを見ないように。 そんな顔を見てしまったら無条件で頷いてしまいそうで。 けれどそんなわけにはいかないのだ。 彼を動かすのが嫉妬だなんて感情に気づきはしないけれど。 |