オリビアの太陽
力強い腕に固定されて圧し掛かられた―――ようは組み敷かれた状態で。 キラはいつもは人を食ったようなフラガの歪められた顔を見た。 本来ならいくらキラが細かろうがコーディナイターの男であるキラがいくら鍛えた軍人だとはいえナチュラルのフラガにそう簡単に拘束されるはずがない。 最終的に拘束されたとしても、もう少してこずっただろう。 けれど、キラはストライクに乗るようになってから食事をほとんど取っていなかったのだ。 おまけにあの話を聞いてから眠れなくて。 その反動でストライクの調整だとか、艦橋の機材の整備だとか。 本来なら彼の仕事でないことまでやって。 いくらナチュラルよりも強靭な肉体を持つコーディネイターといえど、過労と栄養失調で調子が出ないのは当たり前で。 「悪いな。」 「なんで……」 逃げようともがく代わりに問いかける。 どうしてこんなことをするんですか?と。 「もうすぐ補給部隊と合流する。」 それがなんの理由なのかキラは知らないはずだった。 けれどはっとしたような怯えたような表情が意味することを知っているのだと悟る。 「おまえを誰かに任せるつもりはないんだよ。」 おまえのためだなんて言わない。 それが地球軍の身勝手な拘束であることは変わらないから。 「嫌だ……イヤだ、イヤダ」 「キラ」 ただ唇を寄せて愛撫する。 綺麗な存在が零すのは綺麗な涙。 俺としては笑うこいつの方が好きだけれど。 あまり見たことないな。 キラの笑顔なんて。 思って暗く笑う。 その笑みを壊す行為をしようとしているのに。 多分これからもそんな笑顔は俺は見ることはないのだろう。 目覚めたキラはどこか生気が抜けたようなぼんやりとした表情。 傷つけた。 壊した。 罪悪感が押し寄せる。 なのに不思議と汚したという感覚は受けないのだから不思議だ。 「ゴメンナサイ」 聡い彼は知ったのだろう。 行為の前に交わされた会話と。 できるだけ傷つけないように気遣われている事実に。 「なに謝ってんだ?」 「僕なんかを抱かなくちゃいけないことに。」 確かに好んで彼を抱いたわけじゃないが。 それは命令に対する嫌悪感。 キラを傷つけることへの抵抗。 キラを抱くこと自体に対するものじゃない。 もともとは同性愛の気はないけれど、毛嫌いするわけでもない。 綺麗なものを好むのは人の性だ。 それはすべてが顔というわけでなく。体というわけでなく。 基準は人それぞれで。 けれど俺にとってのキラは十分にその対象になる。 (なんてお人よしなのかね……) 優しくて、優しすぎて。 「今は俺を詰る場面なんだがな……」 クシャリと頭をなでる。 子供の頭をいいこいいこするように。 避けられるか怯えられるかするのを覚悟していたのに。 その手は振り払われることはなく。 いつしかキラは眠りに落ちる。 疲れていたのか。 これからのこと全てに疲れたのか。 涙をこぼしたまま眠る少年を愛しげに眺めて。 「あやまるのは俺のはずなんだけどね。」 命令なんだと知られずにただ陵辱してわずかな信用を壊すか。 命令だからと許しを請うか。 どちらが正しいのか分からなかった。 判断に迷った。 「悪いな。」 眠るキラに向けてもう一度だけ謝った。 それはこれから彼を襲う不当な当りように対する謝罪。 今ここにいる時間しか謝ることなんてできないから。 何度謝罪しても足りないけれど。 「ごめん、な。」 それでも許して欲しいのか。 ただその言葉だけを眠る君に。 |