オリビアの太陽
食堂に来たくせに席には着かずに出て行くフラガの手に持たれた二つのトレー。 どこで食べようと本人の自由であるし、別段気にする必要もないのだが。 「フラガ大尉?どこいくんです?」 「自分の部屋で食べるから。」 手が空いていればひらひらと適当に手を振って答えるだろう人は、そう言って食堂の重力下から出て行った。 「さて。お姫様は食べてくれるかねぇ……」 彼がずいぶんとやせたのを知ったのはあの夜。 キラを抱いた後。 不本意なはずのその行為もキラという綺麗な存在に次第に夢中になって。 そして抱きしめたまま目覚めたときに気づく。 もともと線の細い少年ではあったけれど、あんなに細いのは異常だ。 細い細い四肢。 女であるマリューよりも細いその腕。 おそらくここに来てから急激に痩せたのだ。 それは俺たちの所為。 友達の命を盾にとって無理に乗せた俺たちの。 それは罪。 コーディネイターだからと、安心して。 コーディネイターだから出来るのだと言うだけ言って。 誰もキラの心情なんて考えないで。 全てはコーディネイターという言葉で片付けられた。 ばかばかしい。 コーディネイターだからといっても、能力があるとはいっても、戦えるかといえばそれは別。 それなのに。 「頼むから食べてくれ。」 「……いりません。」 懇願するように言ってもキラは頑なに拒絶する。 「坊主」 「食べたくないんです。」 休憩時間を命一杯使って誘っても、それでもキラは決して食べようとはしない。 食事を持つ俺を見ようともせず。 「置いとくから食べられそうになったら食えよ。」 そう言うしかなくて。 部屋を出てため息を落とす。 フラガ大尉が出て行ったのを確認して、借りていたパソコンから目を放す。 そして食事のトレーにちらりと視線だけやって、結局すぐにパソコンに視線を戻した。 当然もう冷めている。 補給ももうすぐだとは言え食料は無尽蔵にあるわけではない。 食べなくちゃいけないのだろうとは分かっているけれど。 食べる気は起きなかった。 どうせ食べても吐いてしまうのが分かっているからか。 もうだいぶ前から胃が食べ物を受け付けてはくれなくなった。 精神的な問題だろうとは思っている。 コーディネイターである自分が病原菌もさしてなさそうなこの空間で病気になどなるはずがないのだから。 「はぁ・・・・・・」 ストライクの整備しないと…… 自分でやらなければ誰もやってはくれない。 被弾したときは別だけれど、細かいシステムの確認は自分の仕事だ。 それは生き死にに関わる大切なことだけれど。 行く気が起きずに、それでも何もせずにはいられずに。 今のものとは違うフロッピーを差し込んで頼まれていたシステムの解析を始める。 ブリッジとドッグと行き来して両方で仕事をこなしてから自分にあてがわれている士官室に帰る。 そしてあるのは昼食時と同じように。 パソコンに向かう姿と。 「食ってないか……」 ため息を一つ。 俺が信用されてないために食べないのか。 それともそれはその前からか。 少なくともあれが追い討ちをかけたことは間違いないだろう。 理解をしてくれているとはいえそれと感情は別物だ。 「まずいな……」 このままじゃ早晩倒れるのが落ちだ。 整備中に倒れるのならまだいい。 だが。戦闘中に意識を失ったら? それはとても怖い想像。 笑っていてとは言わないから。 どうかせめて。 生きようとしてくれ。 |